第一三八話 ソドルオニーア平原大会戦の裏側


 ※マリーダ視点


 夜が明けていく中、馬を駆けさせ、赤熊髭の陣に向かう。


 前方ではフェルクトール王国軍と、ワレスバーン家とヒックス家連合軍が血みどろの戦闘を繰り広げていた。


「クソガァアアアア! 味方だって聞いてたのに、奇襲してくるとは、フェルクトール王国軍には信義はないのかぁ!」


「そっちが先に裏切って奇襲してきたんだろうがっ! ふざけやがって!」


「なに言ってやがる! 嘘を吐くな!」


「そっちこそ、嘘を吐くな!」


 アルベルトの謀略はものすごい結果を招いておるのじゃ。


 お互いがお互いに不信感を持ち、恨み合って、殺し合いをしておる。


 戦場では両軍の死者が多数発生しており、夜通しで激戦が繰り広げられたことが窺い知れた。


 夜中からずっと戦闘を続けておるはず、そろそろ疲労で動けなく頃合いのはずじゃな。


「ラートル、兵どもを任せるのじゃ! 敵軍を食い散らかすのじゃ!」


「おぅ、承知! 邪魔するやつは味方だろうが斬って捨てていくぞぉ! 吶喊!」


「「「おぉ!」」」


 ラトールが率いた兵たちが、死力を尽くして争っている両軍の中に突っ込んでいく。


 妾も遅れず付いていくことにした。


「我らがエランシア帝国軍のエルウィン家なのじゃ! ワレスバーン家とヒックス家の加勢にまいった! 死にたくない者は道を開けよ!」


 エルウィン家の紋章が描かれた戦旗を家臣が高々を揚げた。


「エルウィン家だと!? なんで、ここに! 陸路で来てて、まだあと何日もかかるはずじゃあ!?」


 ワレスバーン家とヒックス家の兵たちは、我が家の戦旗を見て、驚いた表情をしていた。


 まぁ、あっちからしたら妾らはここにはまだ存在してない軍勢だしのぅ。驚くのも仕方あるまい。


「いたぞ! 奇襲を仕掛けてきたエランシア帝国軍の軍勢だ! やはり、ワレスバーン家とヒックス家の手先だったぞ! くそがぁ! 潰せ、潰せ!」


 フェルクトール王国軍には相当恨みを買ったようじゃな。


 もやしっ子みたいな将と兵ばかりで、楽しめない連中ではあるが、数だけはたくさんいるので狩らせてもらうとしよう。


「鮮血鬼マリーダ・フォン・エルウィン! 推し通る!」


 両軍が入り乱れる間を駆け、大剣を振り払うと、両軍の兵が血を噴き上げて地面に倒れ込んでいく。


「気が狂ったか! 味方まで斬っておるぞ! エルウィン家の馬鹿者どもがっ!」


「すまぬのぅ! 妾の剣は敵味方関係なく血を欲するようじゃ! 死にたくない者だけは見逃してくれるようじゃがなぁ!」


 大剣を血振りしてニタリと笑うと、ワレスバーン家とヒックス家の兵が後ずさった。


「気が触れてやがる! エルウィンの鬼どもは、いくさのし過ぎで気が触れたか!」


「失礼な! 妾は正常じゃぞ!」


 失礼な口を聞いたワレスバーン家の貴族の顔面に鞍から抜いた鉄の突起物を投げつけた。


「ぐぅ!」


 突起物を顔面に受けた貴族は、騎馬から地面に転げ落ちて絶命した。


「おぉ、すまぬ。手が滑ったようじゃ! 許せ」


 ワレスバーン家の兵士たちが、こちらを睨みつけるが、妾が鞍から新たな鉄の突起物を取り出すと、視線を逸らした。


「意気地なしどもめ! ならば、フェルクトール王国軍に猛者を求めるとしよう! かかってまいれ!」


「弓で射殺せ! あの化け物には近づくな――」


 化け物と口にした指揮官の騎士の顔に鉄の突起物をくれてやった。


「化け物ではないと何度言えば覚えるのじゃ!」


 馬を駆けさせ、自分に向け放れた矢を回避すると、呆然と突っ立っていたワレスバーン家の兵士たちに矢が突き刺さる。


「くそ! 射ち返せ! フェルクトール王国のクソどもを生きて帰すな!」


「ハハハッ! 馬鹿者どもじゃのぅ! 妾の大剣に血を吸わせてやるのじゃ!」


 馬上で大剣を振り回し、周囲の兵を真横に両断していく。


 周囲には血が噴き上がり、生暖かい液体が降り注いできた。


「雑魚! 雑魚! 雑魚ばかりなのじゃぁああ! 誰ぞ! 骨がある猛者はおらぬのか!」


 大剣を血振りすると、激戦が行われている方へ敵兵を斬りながら馬を駆けさせていく。


「マリーダ殿! 助太刀、助かりましたぞ! 離脱の時を見失い、敵中に孤立してしまっていたので!」


 本能の赴くままに敵兵を狩っていたら、前方から声をかけてくる者がいた。


 声の主を見ると、見覚えのある顔だった。


 キモ豚殿か……。戦場で妾に会うとは運のない男なのじゃ。


 周囲の敵兵を倒しきると、キモ豚はこちらに近寄ってきた。


 すでに配下の兵はほとんどが討ち死にしておるようじゃな。頑張って戦ったようじゃが。


 残念なことに、妾に声をかけてしまった。


 アルベルトからも戦場で出会ったら、しょうがないとの許諾も得ておるし、兄様は裏切者を信用しない。


「ブモワ殿。お勤めご苦労じゃった」


「マリーダど――」


 近寄ってきたキモ豚の首を大剣で一閃し、斬り飛ばす。


「ブモワ・フォン・バスフェミ子爵が、フェルクトール王国軍の攻撃で討ち死にされたのじゃ! やられたらやり返すのじゃ! 弔い合戦なのじゃ!」


「ブモワ殿が討ち死にだと! フェルクトール王国軍の連中め! 許さんぞ! 突撃せよ! ぶっ殺せ!」


「フェルクトール王国軍のくそったれどもに、ワレスバーン家の兵の強さを見せよ!」


 キモ豚殿の死も多少役に立ったようじゃな。


 あとで、アルベルトには不慮の遭遇だったと伝えておこう。


 ブモワの代わりは、アルベルトが戦後処理で不満を覚えたワレスバーン派閥の貴族から見繕ってくるじゃろうしな。


 首を失い地面に倒れたブモワの死体を一瞥すると、さらなる激戦が繰り広げられる地点に移動することにした。


 一番の激戦地へ到着すると、バルトラート、カルア、叔父上を始めラトールが指揮をする家臣たちが、敵兵を草を刈るようになぎ倒していた。


「遅かったな。途中で寝ておったのか?」


 大槍で敵を薙ぎ払った叔父上が、こちらをからかうような視線を送ってくる。


「野暮用を処理してきたので遅れたのじゃ! 妾は寝てなどおらぬぞ!」


「そうか、野暮用か。なら、仕方あるまい! ラトール、押し上げが遅いぞ! これより、マリーダとともに敵陣を切り裂くからな! 遅れるな!」


「うっせい! 親父たちのケツは守ってやるから、さっさと進みやがれ!」


 周囲に視線を配り、兵の指揮を行うラトールも、このいくさでかなりの成長を見せたようじゃな。


 兵たちはラトールの指揮に服しておるし、隙も少ない。


 ケツは任せられそうじゃな。


「ラトール、妾のケツは任せるのじゃ! 傷が付いたら、アルベルトにいいつけて特別反省室行きにさせるからのぅ! しっかりと付いてまいれ!」


「おぅ! 任せろ!」


「カルアたん、バルトラート、叔父上、行くのじゃ!」


「「「おぅ!」」」


 群がってくるフェルクトール王国軍の中に、躍り込むと、得物を振り回し、敵兵の命を次々に奪っていく。


 ずっと戦闘を続けてきたフェルクトール王国軍の動きは悪く、次々に戦意を失い、バラバラと逃げ出し始めた。


「援軍だ! 夢魔の巻き角の紋章! 魔王陛下が到着されたぞ! 援軍だ!」


 戦闘を続けていたら、後方から味方の声が聞こえた。


 兄様が到着したか、これでこちらの勝ちは動かぬ。


 兄様に戦闘を止められる前に、できるだけ敵を狩りつくさねばなるまい。


「兄様が到着されたのじゃ! 首を狩る速度を上げよ! いくさの終結は近いのじゃ!」


「狩れ、狩れ! ここで狩らねば、しばらくいくさはないぞ!」


「逃がしません! 首を置いていきなさい!」


「首を置いてけ!」


 兄様の援軍到着を知った家臣たちが、敵兵を攻撃する速度を一段と上げた。


「エルウィンの鬼どもに後れを取るな! フェルクトール王国の連中を殲滅せよ!」


 ワレスバーン家・ヒックス家連合軍も、援軍到着で息を吹き返し、フェルクトール王国軍を押し返し始める。


 敵はこちらの勢いに押され、崩れ始めた。


 勝負ありじゃな。


 馬を駆けさせ、背中を見せた敵兵を斬り倒しながら、いくさの勝利を確信した。

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