第一二八話 船を買ったら美人女船長がついてきた

「で、エルウィン家は本格的な外洋艦隊をお持ちになるようですが……何隻ほどご入用でしょうか?」


 新たに配られた書類には、ヴァンドラの誇る大型外洋帆船の最新鋭艦種が三つほど記載されている。


 速度重視で後続力のない艦種。


 後続力重視で速度が遅い艦種。


 両方のバランスをとった艦種。


 という三種類だ。


 最低の見込み数/乗り込み最大数は速度重視が10/30名、後続力重視が20/40名、バランス型が15/35名。


 値段は速度重視が一隻帝国金貨一万枚、後続力重視が一隻帝国金貨七千枚、バランス型が一隻帝国金貨一万五千枚と書いてある。


 五年計画で三〇隻規模を予定してるが、艦種は揃えた方が集中運用しやすいよな。

 

「この一番速い船、一択なのじゃ! 我らエルウィン家はいくさ場に最速で到着できる手段を好む!」


 速度重視で荷物積載量が減ってるため、渡洋作戦までできるか怪しいけど、鈍足よりかはマシか。


 足が速かったら接舷切り込みもできるだろうし、鬼人族なら物資は敵から奪うってこともできるしな。


「ですね。エルウィン家は迅速な行動がモットー。ジームス殿、このエクシージ級を三〇隻ほど我が家で調達したい」


「三〇隻!? 帝国金貨三〇万枚ですぞ!? さすがにそれだけを生産する余力はヴァンドラには……」


「でしょうな。実は製造を請け負ってくれるあてがこちらにありまして、そちらへ技術供与という形でヴァンドラの船大工を派遣してもらいたく」


 もともとヴァンドラの大型外洋帆船の技術を求めたのは、ルーセット家である。


 あっちも船を製造する港は備えているため、技術を持つ船大工を派遣してもらえば、製造をできるはずだ。


 そうすれば、ルーセット家はヴァンドラの大型外洋帆船の技術を手に入れ、ヴァンドラは大型造船受注によって街が潤い、エルウィン家はルーセット家秘蔵の島亀付き大型船のゲットと、マルジェ商会を通じて材料費の還流の恩恵に預かれる。


 三者ともに損のない取引が行われるはずだ。


 すでにジームスはこちらのぶら下げた報酬の虜であり、拒絶する気は見せていない。


 確認の意味でこちらに質問をぶつけてきた。


「技術を教える先は……?」


「グレダン領のルーセット家。先方にはすでに話は通してある。ジームス殿が船大工を派遣してくれれば、製造開始できるようすでに交渉は終えてる。三〇隻の建造は五年計画。年六隻建造のうち、三隻分をグレダン領で製造とすれば、ヴァンドラの負担も少ないはず」


「エルウィン家だけでなく、エランシア帝国も水軍強化すると?」


「それはジームス殿が判断すればいい。我が家はとにかく早く自家用のいくさ船が欲しいですよ」


 商売人であるジームスは、エルウィン家の動きだけでなく、エランシア帝国の動きも気になった様子だ。


 まぁ、魔王陛下が渡洋作戦を考えてるとは思わないが、勢力を増すロアレス帝国対策くらいはする気はあると思われる。


 それにルーセット家の当主グレン・フォン・ルーセットは、魔王陛下の義父になられた方だし、嫁にデレデレだって知ってる俺からすれば、嫁の実家のグレダン領防衛に大金を注ぐことも厭わないと思えた。


 そんなこちらの思惑を嗅ぎ当てようとジームスは必死で考え込む。


「承知した。エルウィン家から五年計画でエキシージ級三〇隻建造の受注いたします。年間六隻中、三隻の建造はグレダン領のルーセット家に外部委託し納入。商品代金の帝国金貨三〇万枚は分割支払いでよろしいでしょうか?」


 エルウィン家が攻め取る予定のモラニー市を個人で領有し、ヴァンドラを牛耳るつもりのジームスは、こちらの望む条件を提示してくれた。


 議長である彼が権限を行使すれば、議会も多少紛糾はするものの、脳筋であるうちに表立って敵対する馬鹿もいないため、受注は許可されるはずだ。


「それで頼みます。年間の支払いは、用心棒代三万五千枚を引いて、帝国金貨二万五千枚でよろしいですね?」


「それでけっこう。ヴァンドラとしても大型建造計画で造船所に活気が漲るでしょうな!」


 商談の成立を示す握手をジームスと交わすと、誰かが扉をノックした。


「アレクシアです。おじい様お呼びでしょうか?」


「ああ、入れ」


 ジームスがノックの主に入室を促す。


 扉を開けて入ってきたのは、二〇代前半と思しき、日に焼けた赤銅色の肌をした赤毛の美女であった。


「孫娘のアレクシアです。今は海難事故で亡くなった父の船を引き継いで女だてらに船長をしております。幼少から船上で育ってきた子でヴェーザー河から外洋まで庭のようにしておりますので、きっとエルウィン家のお役に立つかと」


「は? おじい様? 何を言って?」


 赤銅色の肌をした赤毛の美女は、目を点にして祖父の顔を覗いた。


「アレクシア、船は弟のディロンに任せ、お前はエルウィン家に仕えよ」


「は、はい? なぜ? あたしなんです?」


「それは――」


 アレクシアの姿を見たうちの性欲大魔神が息を荒くし、飢えた獣のような視線を彼女に向けている。


 エルウィン家に仕えるなら、孫娘を当主のそばに侍らせるのが一番って判断か。


 さすがやり手の商売人、うちの内情もよく知っておられる。


 どうすれば自分たちが優遇されるのか、知りつくした布石だった。


「ほほぅ、ジームス殿の孫娘か。アレクシアと申したな。妾はマリーダ・フォン・エルウィンじゃ。船は専門外なので、アシュレイ城でそなたから詳しい話を聞くようにと、ジームス殿から助言を受けたのじゃ。これからよろしく頼む」


 マリーダが速攻でアレクシアの手に腰を回し、親し気に会話を交わしている。


 ただ、その目は獲物を捕らえた猛禽の目をしていた。


「え? え? おじい様? どういうこと?」


「アレクシア殿、貴殿には我が家の新設する艦隊司令官として地位をご用意しております。総数三〇隻の大型外洋帆船の指揮をしたくありませんか?」


 戸惑う様子を見せたアレクシアに、水軍最上位者のポストを提示してみた。


 船を操る人材は現状皆無なので、それを見越してジームスは自分の孫娘を高く売りつけてきたものと思われる。


「三〇隻の艦隊司令官……」


 アレクシアの喉がゴクリと鳴る。


 女性であるため、男社会のヴァンドラでは船長以上の地位にはなれなさそうな気もしたので、ポストを提示してみたがやる気をとても見せている。


 能力は見て見ないと分からないけど、ド素人よりはマシなはず。


 マリーダが欲しがってそうだし、ジームスを御するための人質という意味もあるから、手元に置いておきたい。


 能力がなければお飾りの艦隊司令官にしとけばいいしな。


「そうじゃ、アレクシアには我がエルウィン家の船を任せたい」


 当主であるマリーダが、再度アレクシアの耳元で囁くように、ポストの打診を告げた。


「アレクシア、よくマリーダ様にお仕えせよ。ヴァンドラの命運はそなたにかかっておるのだからな」


 ジームスがダメ押しの言葉をアレクシアに告げる。


 圧倒的な陸上戦力を持つエルウィン家の機嫌を損ねれば、ヴァンドラは瞬く間に蹂躙され、灰燼に帰すことを彼女も知っているのだろう。


 緊張した面持ちのまま、アレクシアは静かに頷いた。


「非才の身ですが、エルウィン家の力になれるよう努力いたします。これから、なにとぞよしなに」


「そうか、我が家に来てくれるか! 心強いのぅ。そうか、そうか」


 親し気に腰に手を回して、身体を密着させるマリーダの鼻息はとても荒い。


 あの顔は、アレクシアと夜通し楽しむつもりだ。


 もちろん、俺も他の子もご相伴に預かるつもりでいる。


「では、契約の履行はエルウィン家がモラニー市を落とし、私に譲渡された時ということでよろしいですかな?」


「はい、少し期間を頂きますが、それで大丈夫です。それまでは、根回しに時間を使ってください。モラニー市に侵攻前にはお伝えいたしますので」


 西の連中の動向を確認してからじゃないと、戦端を開けないしね。


 そう言えば、大公家に仕込ませた詐欺師からも連絡きてたな。


 そっちも仕込みをしておかないと、ロアレス帝国の例の人に色々とやられそうだし、年の後半戦は連戦だろうからしっかりと謀略を仕込んでおかないと。


 忙しい。忙しいけど、頑張って仕事する!


 俺たちはジームスとの会談を終え、アレクシアを連れ、アシュレイ城へと帰還した。


 あ、もちろん、お持ち帰りしたアレクシアはみんなで美味しく食べさせてもらいましたよ。


 ええ、荒くれ者の水夫たちを従えてたので、気の強さは一人前でしたけど、うちの性欲大魔神にいいようにもてあそばれ、その愛人たちも彼女をいいように嬲ってましたから。


 いやー、えっちい人たちですわー。


 赤銅色に焼けた肌に浮かぶ珠のような汗ってエロいですよねー。


 おかげで徹夜だった気もする。


 夜のお仕事を頑張ったせいで、昼のお仕事が遅れそうなんで挽回します。


 

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