第一二〇話 帝国歴二六四年決算報告書

 帝国歴二六五年 柘榴石月(一月)


 新年明けました! でも、なんで仕事が減ってないの! 聞いてないよ!


 アレウスたんとユーリたんとアレスティナちゃんたちにお年玉あげて、一緒に遊ぶ予定だったのに!


 正月から書類仕事なんて誰の陰謀だろうか!


 はい、俺のせいです。


 イレーナさん、ごめんさない。


 だって、年末に魔王陛下がラルブデリン領の施設の視察をしたいって言うから対応するしかなかったんだし。


 イレーナさんたち優秀な文官団がササッと処理してくれてると思って帰ってきたんだけど……。


 予想以上の作業量だったみたいだね。


 自身のリフレッシュも兼ねてラルブデリン領の温浴施設を堪能して、アシュレイ城に帰ってきたら文官たちの死屍累々の山。


 人手が足りなかったのか、エミルやリュミナスまで書類仕事の処理に動員され、特製ドリンクを片手に気絶してるなんて思ってなかったんだ。


「アレウスたん、本日は臨時当主補佐の任を命ずる。ママをお助けせよ。補佐としてユーリたんを付ける。共同して任務に当たれ」


「しょうち! アレウスはママのおしごとのほさをします! ユーリたん、ママを執務室に連行する手伝いをたのむ」


「りょーかい! あーたんの指示を実行します!」


「嫌じゃ! 妾は新年早々仕事などせぬ! 正月は働かずに飲み食いしてのんべんだらりと暮らすのが鬼人族の伝統なのじゃ! 離すのじゃ! あ、ああっ! ユーリ、アレウス、妾を殺すつもりか!」


「りしぇーる。ママの着替えをたのむ」


「承知しました。マリーダ様、お覚悟を」


「嫌じゃー! 仕事などしとうない!」


 息子たちと専属メイドに引きずられて、嫁が居室の奥に消えていく。


 すまんな……マリーダ。


 この地獄、俺一人では乗り切れないから、道連れにさせてもらう。


「さて、アルベルト様もお覚悟を」


 眉間にこれでもかというくらい深い筋ができたイレーナに睨まれる。


 でもさ、たしか十月くらいまでは仕事が溜ってなかったはずなのに……。


 ラルブデリン領にも代官のフォローグ君を送ってからは問題なく治まってたはずなのに……。


 どうしてこうなった……。


「は、はい。すぐに行きます」


 謎の年末作業量増大の原因を探るべく、イレーナに連行されるように執務室に向かうことにした。



 去年のハイライト!


・ビッグファーム領の大牧場開発がかなり進んだ!


・防衛専門部隊の石砲傭兵団ヨゼフを雇った!


・エルウィン家が伯爵家にランクアップ、ついでに俺も帝国騎士爵もらって帝国貴族入りした!


・軍馬の予約販売と競馬事業でがっぽり!


・飛び地の新領地ラルブデリン領でエロエロな蛇身族保護した!


・期待の大型新人フォローグ君を代官としてラルブデリン領へ派遣!


・血抜きでアレクサ王国攻め込んだら、黒虎将軍とその軍師で転生者と出会った!


・赤熊髭派閥のブモワを取り込んだ!



 書類の処理をしながら、年末の書類仕事増大の原因を探っているが、なぜ増えたのかいまだ不明だった。


 十月分までは問題なく処理され、年末はいつもより余裕で乗り切れるはずの作業量だ。


 とりあえず、作業量増大の原因は来季事業の予算処理かと思い確認していく。



 やることリスト二六五年!


・赤熊髭派閥と風見鶏派閥に対しての諜報活動充実(ラルブデリン領に拠点構築済み→人員拡充)


・ロアレス帝国の黒虎将軍に対しての諜報活動充実(専属チーム確保のため人員確保)


・四大公家に対しての諜報活動充実(アシュレイ城に対策本部設置のための人員確保)


・領内の度量衡の統一(メトロワ市・ビックファーム領完了→ラルブデリン領開始)


・領内の農村の正確な納税基礎台帳の作成(メトロワ市・ビックファーム領完了→ラルブデリン領開始)


・領内の産業振興(アルカナ領の鉄鉱石精練所稼働)


・アシュレイ近郊の貿易港の拡大(第二期倉庫群建設着工)


・領内の堤防水利開発(メトロワ市近郊の堤防整備着工)


・人口増加策促進(早婚奨励金・未成人者の人頭税免除実施)


・子作り!(四人目)



 年末に仕事量が増大した理由が判明した。


 マルジェ商会の社員として雇っている諜報員だけでは人手が足りず、エルウィン家として新規人員の募集をかけまくった結果、その事務作業量が膨大な量になっていたのだ。


 そう言えば、そんな指示を出した気もする。


 採用は年始でいいやって思ってたけど、選考作業で文官たちが潰れる作業量にまで膨れ上がったってわけか。


 諜報は俺の領分だからな……。


 文官たちには悪いことをした。


 はぁ、マジで諜報はパンク寸前。


 今年は本格的に手を入れないとな。


 ため息を吐きながら、できあがった決算書を眺めていく



 エルウィン家 帝国歴二六四年決算書


 人口:アシュレイ城(本領)27743名(3009名増) スラト城(アルコー家保護領)5030名(555名増) アルカナ城3921名(678名増) ヒックス城 716名(99名増) ビックファーム領330名(130名増) メトロワ市(保護領) 2680名(125名増) ラルブデリン領(新領地)633名 合計41053名


 租税収入(帝国金貨換算)


 ・入市税……帝国金貨9880枚

 ・施設使用税……帝国金貨1767枚

 ・相続税……帝国金貨68枚

 ・土地売買税……帝国金貨88枚

 ・賦役免除税……帝国金貨570枚

 ・売り上げ税……帝国金貨8657枚

 ・生活必需品税……帝国金貨2567枚


 租税収入総計(金納分):帝国金貨23597枚(+3740枚)


 租税外収入(帝国金貨換算)


 ・放出品売却益……帝国金貨10023枚

 ・香油専売利益……帝国金貨10112枚

 ・精練金属売却益(銅・錫)……帝国金貨7700枚

 ・精練金属売却益(銀)……帝国金貨20300枚

 ・精練金属売却益(鉄)……帝国金貨5030枚

 ・ヴァンドラ用心棒代……帝国金貨35000枚

 ・モラニーよりの貢納金……帝国金貨10000枚

 ・軍馬オーナー登録料……帝国金貨7000枚

 ・軍馬買い上げ予約金……帝国金貨5000枚

 ・競走馬育成供託費……帝国金貨6000枚

 ・特別温浴施設会員費……帝国金貨12000枚

 ・競馬事業収入……帝国金貨4500枚


 租税外収入総計:帝国金貨132665枚


 収入総計:帝国金貨156262枚(-5308枚)


 人件費(帝国金貨換算)


 ・小者……帝国金貨1枚×12ヵ月×325名=帝国金貨4500枚

 ・小者頭……帝国金貨3枚×12ヵ月×100名=帝国金貨3600枚

 ・従士……帝国金貨3枚×12ヵ月×400名=帝国金貨14400枚

 ・戦士……帝国金貨4枚×12ヵ月×275名=帝国金貨13200枚

 ・戦士長……帝国金貨10枚×12ヵ月×16名=帝国金貨1920枚

 ・家老……帝国金貨15枚×12ヵ月×2名=帝国金貨360枚


 家臣総数:1118名(151名増)


 人件費総計:帝国金貨枚37980枚(+5280枚)


 諸雑費(帝国金貨換算)


 ・当主生活費……帝国金貨1000枚

 ・飼料代……帝国金貨435枚

 ・城修繕費……帝国金貨3420枚

 ・装備修繕費……帝国金貨1867枚

 ・大牧場改修費……帝国金貨3000枚

 ・港湾整備費……帝国金貨6500枚

 ・堤防拡張費……帝国金貨1400枚

 ・鉱山施設整備費……帝国金貨5560枚

 ・ノット家鉄鉱山捕虜への食費補助……帝国金貨3000枚

 ・伯爵家工作費……帝国金貨40000枚

 ・温浴施設建設費……帝国金貨5000枚

 ・諜報組織人員確保……帝国金貨7000枚


 諸雑費総計:帝国金貨78182枚


 支出総計:帝国金貨116162枚(+35042枚)


 収支差し引き:帝国金貨40100枚増


 繰り越し金:帝国金貨160599枚(本年度40100枚増)


 本年度地代+人頭税として(食糧物納分):900万食


 備蓄食料 500万食(+70万食積み増し)


 全人口籠城時:60日分(一日二食配給)




 ふぅ、今年もプラスで終わったようだ。


 大きないくさはしなかったが、伯爵家になる際の山吹色のお菓子の負担がきつかった。


 競馬事業が軌道に乗ってなかったら、大赤字だったな。


 あと蛇身族の温浴施設は、現状の会員費だけで黒字化達成してるんで、なるべく蛇身族保護のための資金として使う方向でいこう。


 産休施設と出産施設と保育施設とかの準備とかもしておいた方がいいかもしれん。


 美人で世話好きでエッチな種族は世界の宝だしな。


 当面は会員数を絞って運営でもいいだろう。


 諜報組織は仕事量が増大しすぎて、パンク寸前なんで早急に手を打たないと、機能不全に陥る可能性が高い。


 きな臭さが漂っているため、諜報の精度が落ちるのは絶対に避けたい事態だ。


「ママ、起きて! まだ、いんしょう押しが残ってる! ユーリたん、れいのものを」


「りょーかい、とくせいにがにがちゃー」


 天使のような笑顔をしたユーリたんが、印章を握ったまま気絶しているマリーダの口に緑の液体を注ぎ込んでいた。


「ひぎぃいいいいっ! にがっ! にがっ! 口の中が苦い物で満たされておるのじゃ!」


「よし、これでママは起きた。おしごとさいかい! りしぇーる、つぎのしょるいを」


「アレウス様、次はこちらです」


「うむ、ごくろう。ママ、遊んでいるひまはないのです」


「アレウス、妾はもう無理なのじゃ……頼む、もう今日は終わりに……」


「なりません、こちらのしごとがとどこおれば、めいわくするのはりょうみんたちだとパパがいつも言っています」


 アレウスたん、我が息子ながら母親に対して慈悲の欠片もない鬼のような仕打ち。


 武芸も優れた資質を見せ、統治にも興味を持ち、将来が頼もしすぎる跡継ぎ。


 さて、俺もにがにがちゃを飲まされないよう、諜報部員の選別面接を片付けるとするか。


――――――

あとがき


☆の応援ありがとうございます。カクヨムコン異世界ファンタジー150位台まで浮上しました。さらに上を目指して更新も頑張ってまいります! 脳筋たちをコミカライズさせたいっす!

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