第一一四話 脳筋は血を浴びないと生きられない種族らしい

 帝国歴二六四年 紅水晶月(一〇月)


 いくさもなく、助っ人参戦も俺が拒絶したことで、暇を持て余したマリーダと脳筋四天王が騒ぎ始めた。


 やはり脳筋は年に一度は血を浴びないと生きていけない種族らしい。


 不満を持つ彼らは、執務室で執務する俺のもとに日参し、いくさいくさと騒ぎ、色々と滞り始めている。


 上司が上司なら、部下も部下でいくさのできない憤懣によって、ビックファーム領の競馬事業にのめり込む者も出てきて、色々と苦情も上がってきていた。


 血抜きが必要な頃合いか。


 手ごろな相手というと……アレクサ王国。


 直接国境を唯一接するスラト方面から近隣領を荒らすくらいなら、算盤も合うか。


 いくさの費用を見積もって、利が出るかの判断をする。


 荒廃の進むアレクサ王国の国境領は、略奪してもそう美味しくない。


 まだまだ不足してる人手の確保を第一目標にしてくるか。


 リゼルのおかげで、ゴランもアレクサ王国からの人狩りを黙認してくれるって内諾は得てるし。


 不満の特に高い正規兵五〇〇、マリーダと四天王連れて、アレクサ王国の散策するとしよう。


 騒ぐマリーダたちを手で制すると、書き上げた編成表を突き付ける。


 アレクサ侵攻軍編成表


 総大将 マリーダ 正規兵 騎兵 100


     ブレスト 正規兵 騎兵 100


     カルア  正規兵 騎兵 100


     ラトール 正規兵 騎兵 100


     バルトラード 正規兵 歩兵 100



「はい、この編成でアレクサ王国に人狩りに行きます。準備は昼までに終えてくださいね。遅れたら即中止」


「承知なのじゃ! いくさじゃ! アルベルトにいくさの許可をもらったどー! 太鼓や鐘を鳴らせ! すぐに召集じゃ! 時間はないぞ!」


「アレクサの連中か。もう骨のあるのは残っておらんだろうが、城で暇を持て余すよりはマシ。すぐに準備するぞ」


「いくさだぁあああああっ! やっと、新しい斧の試し斬りできるぜぇえええっ!」


「今回は隊を率いるのか、皆がついてこれるだろうか」


「腕が鈍ってないか確かめないとな。人に当てる感触はいくさしか確認できないし、思いっきり試させてもらおう」


 編成表を奪い取った獰猛な脳筋たちが、部下たちを招集するべく執務室から駆け去っていく。


 緊急招集を告げる太鼓や鐘が打ち鳴らされ、城内が急に騒がしくなった。


「よろしいのですか?」


 秘書を務めているイレーナが、出兵を決めた俺に話しかけてくる。


「よろしいも何も、アレを放置すると、色んな被害が出るから、アレクサ王国には悪いが血抜き相手になってもらうよ。とりあえず、1000人くらい攫ってくるから、ミレビス君と新規開拓村の予算を組んでおいて」


「はぁ、承知しました。予算の手当ては早急にいたします」


 イレーナは俺が書き上げた予算請求書を受け取ると、ミレビスのもとに向かった。


「こたびの出兵は人狩りだけではないのでしょう?」


 近侍していたワリドが、俺の急な出兵を訝しんで質問をしてきた。


「まぁ、ね。うちが動くときな臭い動きの黒幕も動くと思ってさ。相手として最弱のアレクサ王国だし、こちらが負ける要素はない」


「では、各地の情報収集の強化を指示しておきます。重点箇所は?」


「赤熊髭と風見鶏のところの派閥。うちがまた戦果を挙げれば何かしらの動きを見せると思うしね」


「承知した。ワレスバーン派閥とヒックス派閥の動きを重点的に調査します」


 ワリドはそれだけ言うと、執務室から姿を消した。


「さて、合戦、合戦。リシェール、私の鎧も出してくれるかー」


「はーい、あたしはマリーダ様の準備中で手が離せないので、エミルが今お持ちしますのでお待ちください」


 奥の部屋からリシェールの返事があったかと思うと、すぐにエミルが俺の鎧を持って執務室に現れた。


「ご準備させてもらいます」


「ああ、すまないな。頼む」


 エミルに手伝ってもらい、甲冑を着込むと、召集の太鼓を聞いて集まってきた兵たちで溢れかえる中庭に向かった。


「私語を止めるのじゃ! 総員整列! これより、アルベルトから今回遠征目標の発表がある!」


 マリーダの号令で、私語を交わしていた正規兵たちが一斉に整列し、傾聴する姿勢を取った。


 さすが体育会系脳筋戦士団だけのことはある。


 いくさに対する心構えが農兵たちとは違うな。


 戦士の顔付きになった兵たちを前に、アレクサ侵攻作戦の概要を説明していく。


「今回の遠征先はスラト領から出撃し、アレクサ王国のアレバヤフ地方を荒らしまわる。第一目標、占領した領地の住民の強制移住。家財道具はバッグ一つまで許可。乱暴狼藉は厳禁。違反した者は?」


「「「「即処刑っ!」」」」


「よろしい。分かっているようだね。続いて第二目標、アレクサ王国軍の参戦時は迎撃戦を展開。住民の強制移住完了まで彼の地を保持」


 脳筋たちの顔に凶悪な笑みが浮かび上がる。


 彼らとしては、アレクサ王国軍が救援に駆け付けることを期待しているのだろう。


 まぁ、今のアレクサ王国じゃ動員しても農兵主体の3000程度だろうし、舐めプレイにもならない気がする。


「以上、各員の奮闘を期待する」


「では、出陣なのじゃ!」


「「「おおぅ!!」」」


 こうして俺は血に飢えた脳筋たちを従え、ご近所さんにカチコミに行くことにした。

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