第九十九話 投書内容が胡散臭い企業の採用者の声みたいだった件



 おところ:アシュレイ領 職業:村長 年齢:五〇歳 性別:男


 アシュレイで生まれ育って五〇年。


 毎年恒例だったエルウィン家の戦時特別徴収がなくなったうえ、相続税が取られなくなって息子たちに財産を残せるようになりました。


 長男に村長を継がせ、次男には近隣の土地を開拓させ、三男は城で文官に採用。


 それぞれ嫁を迎えて一家を立てて、生活の基盤も安定してます。


 村人たちも以前より懐が温かくなったようで、統治もしやすくなりました。


 エルウィン家サイコー!



 ふむ、農兵動員に村長連中が積極的な理由がこれだったか。


 続いてのお便りは――。



 おところ:アルカナ領 職業:鉱夫(敗残兵) 年齢:三五歳 性別:男


 元アレクサ王国の農兵だったオレが、この鉱山に送り込まれて一年。


 最初はイヤイヤ掘ってた銀鉱石掘りでしたが、刑期を短くしたい一心で効率的な採掘法を編み出しました。


 編み出した採掘法で、採掘量は鉱山にいる全鉱夫の中で月間トップになること五回。


 おかげで刑期は短縮され、晴れて自由の身。


 そのうえ、破格の待遇で正規鉱夫として採用されることも決定し、アレクサの家族を呼び寄せました。


 アレクサ王国で小作農をしてた時から比べると、収入五倍。


 小さいながらも家を建てる目処が立ち、嫁も子供も大喜び。


 こんなことってあるんですね。エルウィン家、サイコーです!



 ふむ、転職組かー。優秀な成績を収めたら刑期短縮ってのが予想外に効いてるな。


 それに家族も呼べたか。よかった。よかった。


 これからは、うちでしっかり納税してくれたまえ。


 続いてのお便りは――



 おところ:スラト領 職業:専業主婦 年齢:二〇歳 性別:女


 アルコー家の縁者として生まれた私は、最近になって、アシュレイ領のエルウィン家に連なる鬼人族の男性に嫁ぎました。


 鬼人族の方は粗暴だと聞いて怯えておりましたが、配偶者となった殿方は、とても優しくて筋骨もたくましく、私の好みに合った方で、大事にしてくれています。


 旦那様は戦士階級の方で、お給金の他に頂ける各種手当の収入もあり、日々の生活に苦労することはなく過ごせております。


 ただ、少々、旦那様の夜の方が強いのが玉にきずですが、私もアルコー家に縁する女。


 旦那様の求めに応じて、日々頑張っております。こんな素敵なご縁を頂いたエルウィン家サイコー!



 うむ、うむ。スラト領のアルコー家の縁者との縁組はガンガン進んでるからな。


 次世代になれば、併合しても文句が出ないくらいアシュレイ領との血の繋がりは強くなるはず。


 続いてのお便りは――



 おところ:ヒックス領 職業:兵士(元農民反乱軍) 年齢:二五歳 性別:男


 アレクサ王国の農民反乱軍として、バルトラード親分の下でブイブイ言わせてたオレも気付いたら、従士身分でエルウィン家の家臣に組み込まれてた。


 今はヒックス城の守備兵として、正統じゃない方のアレクサ王国が侵攻してこないように警戒に当たっている。


 村では乱暴者のごく潰しと鼻つまみされていたオレも今じゃ立派なエルウィン家の兵士様。


 城下に行けば、若い女から言い寄られること多数。


 でも、もっとモテるためエルウィン家の戦士階級にしか許されない赤の鎧を目指して、厳しい選抜訓練に耐えてる最中。


 夢を目指して突っ走れるのもエルウィン家のおかげ。入ってよかったエルウィン家、サイコー!



 いいねぇ。やる気に漲る若い子は実にいい。


 ぜひ、選抜訓練を合格して赤い鎧を着てもらえるといいな。


 続いてのお便りは――



 おところ:アシュレイ領 職業:商人 年齢三三歳 性別:女


 女だからと商売できずにいた私でしたが、新設された自由市では身分、性別関係なく店を出せると聞き、思い切って近隣の美味しく身体にいい野菜を扱った露店を出したら大当たり。


 噂が噂を呼び、今では肉体の健康にお金をかける鬼人族の方からも、ご利用して頂けるほどになりました。


 自由市の露店から始まった店も、来年には商業区画で店舗を構えられる予定です。


 扱う農産物も近隣の物だけじゃなく、交易商人が運んできた遠くの物も扱う予定もあり、これからガンガン販路を広げていこうと思っています。


 女性でも起業できるエルウィン家、ハッキリ言ってサイコーです。



 うむ、野菜は大事。今度この店の野菜をお取り寄せしてみるか。


 食べておいしかったら、アレウスたんやユーリたんのご飯にも採用してもいいかも。



 おところ:アシュレイ領 職業:農民(元流民) 年齢二八歳 性別:男


 飢饉で喰い詰めて、ふらふらと彷徨ってたオレがエルウィン軍に保護されて数年。


 今では水路も整った立派な開拓村で自分の農地を持って、額に汗して農作物を一生懸命に作っている。


 必死で働いて、餓死で死ぬ寸前だった時からは考えられないほど、財産も築けた。


 おかげで流民として、この村に一緒に来て気になってた女性と結婚し、一家を構えさきごろ子供も生まれた。


 村長からのお達しがあり、来年からは納税も始まるが、子供が生まれたため、徴税は微々たる額しかされないらしい、本当にそれだけでいいのかと思ってしまう。


 エルウィン家に来てから、オレの自分の人生は開けました。本当にサイコーだぜ!



 おー、流民たちの開拓村も今や巨大な食糧生産地に変わったからな。


 徴税が微々たる額とか言ってるが、わりと取ってるはずなんだがなー。


 農作物の生育がチート級の土地だし、他の土地で農家してた人にしてみれば、三倍も四倍も稼げるんだろう。


 でも、よかった。よかった。



 って、ご意見箱にエルウィン家サイコーな投書しかないけど、仕込んでないよね?


 忌憚ないご意見を投書するようにと言ってあるんだが、どう見ても胡散臭い企業の採用チラシに書かれてるような内容ばかりな気がするんだ。


 ちょうどイレーナがが戻ってきたから、確認してみるか。


「イレーナ、ご意見箱の投書がエルウィン家を褒める物ばかりなのだが。厳しめのご意見はなかったのかい?」


「いちおう私も回収して来た者に三度確認しましたが、ありませんでしたね。その投書が現状のエルウィン家に対する民たちからの評価かと」


「そうか、引き続きご意見箱は各領地に設置しといてくれたまえ」


「はい、承知しております。で、決裁は進みましたでしょうか? 追加の書類をお持ちしましたが」


 イレーナの額に刻まれた皺が深くなる。


 しまった! お手紙読むのに集中してて、決裁が進んでいないぞ!


「これより迅速に対応する!」


 イレーナから追加された書類の山を一掃するべく、俺の年末進という名の死の行進が始まった。



―――――――――

分割投稿読んで頂きありがとうございます。


異世界転生軍師戦記もプロローグ含め一〇〇話達成しました。


たくさんの方に読んで頂けて感謝しております。できれば、この作品コミックとかにしたいので、引き続き応援してもらえると幸いです。

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