第四十三話 雑草狩り

 帝国歴二六〇年 紅玉月(七月)


 はぁああ、腰逝くぅ……。


 え? 命令違反に近い強行軍をしたマリーダに教育的指導という名の夜のお仕置きをリシェールともにこの一ヵ月ほど施していたからね。


 当主で指揮官であるけど戦場に到着するまでは指揮権は俺の管轄だから、ここはキッチリと調教して違反のデメリットを教え込んでおいた。


 いや、でも頑張り過ぎてマリーダが変な属性に目覚めたかもしれないけども……。


 俺も若い身体だからね。荒ぶって、勢い余っちゃったし。


 その割を喰って、リシェールやイレーナ、リゼ、リュミナス、フリンたちも俺の毎夜繰り広げられるハッスルタイムの餌食になっていた。


 おかげで腰がね……。


 でも、まぁ充実の夜の生活を送れているし、『勇者の剣』の後処理も終わり、領内も平穏無事におさまり麦秋も過ぎ、豊作を迎えていた。


「グスン、アルベルトがいくさで大将首挙げた妾に厳しいのじゃ。リゼたん、フリン、リュミナス。妾を癒して欲しいのじゃ」


 リシェールに監視されての印章押しの仕事を終えたマリーダが、俺の執務室にいた三人のもとにきてリゼに膝枕を要求しつつ甘えていきている。


「そんな厳しいことは申しておりませんぞ。いくさばで総大将がもろ肌脱ぎで敵を挑発したり、兵たちに強行軍を強いてなければ、私も褒めていましたから」


「あの程度のクソ雑魚兵くらいに妾が遅れを取るわけなかろう。アルベルトは心配性すぎるのじゃ。ほれ、フリン。リゼの隣で妾の耳掃除をしておくれ」


 手持ち無沙汰で立っていたフリンの手を取ったマリーダが、ソファーで膝枕をさせているリゼの隣に座らせて掃除を要求していた。


「あ、はい。いますぐに」


「リュミナスは妾の腰を揉んでくれるかのぅ。仕事のし過ぎで疲れたのじゃ」


「はーい。失礼します」


 リュミナスもソファーに座ったリゼの膝枕でリラックスしているマリーダの腰を揉み始めていた。


 そんな二人の尻尾をニヤニヤとした顔でマリーダが弄っていた。


「マリーダお姉様。耳掃除してもらいながら、フリンの尻尾弄ると危ないよ」


「大丈夫。大丈夫なのじゃ。ほれ、フリンはここがええのか? リュミナスもビクビックしてろうのじゃ。ここか? ここがええのか?」


 マリーダは身の回りの世話をさせる女官として出仕させている二人の獣人たちの尻尾を弄り悦に浸っていた。


 その姿たるや、中年のセクハラ親父そのものなんだが……。


 やってる人が綺麗な女性だと、百合という素敵な世界が繰り広げられているように見えるのは世界の不思議の一つであろう。


 個人的には女性同士がキャッキャウフフしているのは嫌いではないので、特に注意する気もない。


「はぅ! フリン、そこは入れすぎなのじゃ。あっ、あっああぁラメェエエ」


「ひゃぁ! す、すみません。マリーダ様が尻尾を弄られるので手元が……。すみません、すみません」


 セクハラしたせいで耳かきがズップリとマリーダの奥まで突き刺さったようだ。


 刺激され逝ってしまったマリーダがビクンビクンと身体を震わせ、口の端から涎が垂れていた。


「相変わらず、騒がしい執務室ですな。まぁ、綺麗どころが揃っているから目の保養には良いところだが」


 マリーダがキャッキャしていたところに、『勇者の剣』の後始末を任せていたワリドが入ってきていた。


 山の民の筆頭族長となったが、普段はワリハラ族長とゴシュート族の影武者に運営を任せ、自分は俺の個人的部下としてゴシュート族の若者で編制した情報組織を指揮してくれている。


「ワリドか。騒がしくてすまないな。ところで領内での『勇者の剣』の残党の動きはどうだ?」


「アルベルト殿の推測した通り、山中の砦から事前に逃げ出して、こちらの追手を撒いた者たちがそれなりにアルコー家の領地に潜伏してそうです」


 エルウィン家の保護領になったとはいえ、アルコー家も一枚岩ではないことは、リゼからも知らされていた。


 エルウィン家に近い北部の農村は親エランシア帝国の親エルウィン派であるが、南に下り山岳地帯に近い農村には親アレクサ王国派の者たちがおり、その村長連中と『勇者の剣』の残党が何やらコソコソやっているそうだ。


「ふむ、やはりか……。地下活動されると面倒だし、見せしめにできそうな農村はあるか?」

 

「アルコー家南部の農村でいくつか見繕ってあります。リゼ殿の許可があれば、踏み込んで証拠を掴みますが……」


「オレの実家は複雑だからなぁ。早いところ、アルベルトの子で男児を設けないと……。南部ってーと大叔父の一族の方か……。あっちはエランシア帝国嫌いだからな。処断は致し方ないよね」


「リゼには悪いが、俺との子に継がせる領地に雑草を残すつもりはないからな」


「リゼたんの領地に不届き者がおるなら、妾もアルベルトに同行して成敗してこよう。農村の視察も当主の重要な仕事であったな? アルベルト」


 ビクンビクンと逝っていたマリーダが意識を取り戻していたようで、膝枕してくれていたリゼの太ももをお触りしながら、殊勝にも巡察の手伝いを申し出ていた。


 だが、絶対に荒事の気配を察しての参加申し出あるはずだ。


 あれだけお仕置きしたのに、この脳筋女将軍はまだ暴れ足りないらしい。


 こういった場合、俺が城を不在にすると訓練と称して兵を動員しかねないので、一緒に連れて行くことに決めた。


「仕方ないですね。マリーダ様、付いてくるんだったらお支度は早めにお願いしますよ」


「分かったのじゃ。すぐに用意する。フリン、リシェールに鎧を持てと伝えてくるのじゃ!」


 リゼの膝枕から飛びあがると、フリンに対し戦支度をさせるように伝え、リシェールのもとに走らせていた。


 この人はヤル気だよ。ダメだよ。平和的にいこうか。平和的に。

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