子供たちの消えた世界で……「トゥモロー・ワールド」

 ――人類から生殖能力が失われ、子供が生まれなくなった近未来。文明が崩壊していく中、イギリスだけは移民への弾圧や排除で秩序を保ち続けていた。イギリス政府職員として働くセオは、反政府組織に身を置く元恋人に依頼され、一人の女性を“通行”させる仕事を依頼される。その女性は「妊娠」をしているのだ。世界で唯一の子供を宿した彼女を巡り、反政府組織の魔の手が忍び寄る中、セオは彼女と共に逃避行を行うが――


 某エロゲーにもあった「子供が生まれなくなった世界」を描くSF映画、P・D・ジェイムズ原作「人類の子供たち」(92年作)の映画化作品で、アルフォンソ・キュアロン監督がメガフォンを取った。主演にクライヴ・オーウェンを据え、マイケル・ケイン、ジュリアン・ムーアら実力派キャストを据えた豪華作品となっている。意欲的な長回しのカットがかなり有名な作品だが、どこでも話題にされているので他について語っていこう。


 SF映画であるが、物語の背景にあるのはとても緩やかな「人類滅亡」のストーリーだ。ある日を境に人類から生殖能力が奪われ、人類の最年少ですら18歳で、後はただ人類が老いて消え去っていくしかない絶望的な世界である。人類が消えるまでの緩やかなカウントダウンの中で、足掻いて大声を上げる者もいれば粛々と日々を過ごす人もいるという終末世界の描写がとにかく見事だ。


 主人公はそんな世界に身を置くしがない政府職員であるが、実際には終末世界を満喫しまくっており、日々発生するテロの影におびえながらも、森に住むヒッピーじみた生活を送るマイケル・ケインとハッパを吸ってキマってはジョークでゲラゲラ笑ったりする日々を過ごしている。「もう人類滅亡するし、しゃーないよなぁ」と終末をあっさり受け止めて傍観しているその姿は「自分も同じ世界になったらこんな気持ちで日々を迎えたいよなあ」となる。


 しかし、彼の生活は突如として舞い込んだ人類救済の希望たる「妊娠した少女」が現れた事で一変する。反政府組織の魔の手や、苛烈な弾圧を繰り返す政府の手から逃れながら、主人公は再び子供が生まれる世界を目指して活動を続ける組織、ヒューマン・プロジェクトに彼女を送り届けるために地獄の中に突っ込んでいく。

 地位や大切な人など、いろいろな物を失いながらも、終末を見届けるしかなかった主人公は人類の希望――赤ん坊のために奮闘をしていく。希望は繋がれるのか、それとも……


 一風変わった「人類滅亡」映画であるが、一見の価値は十分ある名作だ。

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