エクストリーム退職ムービー……「Z Bull ゼッド・ブル」

 ――軍事企業のアモテック社に勤める、うだつのあがらない平社員のデズモントは上司にいびられ、リストラに怯える退屈な日々を送っていた。会社の環境は最悪で、転職を考えるデズモントは仕事そっちのけでゲーム開発を進める。そんなある日、試作品のエネルギードリンクが社員に配布されるが、それを飲んだ社員は副作用で凶暴化、社内はたちまち社畜が殺し合う地獄絵図と化す。エナドリを少し飲んでしまった幼馴染のサマンサ、ラマダンで飲まずに済んだインド人のムラトと共にデズモントは地獄の会社から命がけの退職=脱出を図ろうとするが――


 仕事のストレス、職場の複雑な人間関係、劣悪な労働環境、首切りが横行する世知辛い不況……と困難の矢面に立たされるサラリーマンたちが命がけの退職を図ろうとするエクストリーム退職ムービーである。なんじゃそりゃと思うがマジでこんな感じの映画である。

 出演は映画「ギヴァー 記憶を注ぐ者」の新鋭、ブレントン・スウェイツ。そのほか「デッドプール」のタクシー運転手や、「ドント・ブリーズ」で盲目親父と死闘を繰り広げた姉ちゃん、「シャザム」など今をときめく話題の俳優が目白押しのキャストが物語をハイテンションで回していく。


 前半はうだつの上がらないサラリーマンの悲哀な日常や、クソみたいな上司の横暴など、こんな所で働きたくねえと思うようなヒッドイ会社の実情が描かれる。主人公は日本人視点で見れば相当のクズ社員ではあるが、境遇が境遇故に「さっさと転職して幸せになれよ」「転職後の事考えてるあたりデキるぞコイツ」「むしろ未経験でそこまでゲーム開発できるなら最初からゲーム会社就職しろよ」と思いたくなるし、応援したくなるキャラとなっている。実際、即日クビを言い渡せるアメリカならではの悩ましい社会事情では致し方ない。

 しかし、そんな彼は一転して社員ほぼ全員凶暴化、殺戮の現場と化した社内を右往左往する最悪のサバイバルに転じる事になる。

 

 会社の試作品エナジードリンクの「ゾルト」を飲んだ社員は全員凶暴化してしまう。面白いと思うのは手当たり次第に人をぶっ殺したりと感情が攻撃的になる一方で、そんな状況でもまだ仕事している所。生首片手に新商品のキャッチフレーズを考えてたり、書類提出後のスペルミスを指摘して殺しにかかってきたり、血管浮き上がらせながら書類をタイプしてたりと「死と隣り合わせの凶悪オフィスライフ」が待ち構える中盤は最高に面白いし、密室ゾンビ映画としての風情を強く漂わせているのもポイント。


 もちろんギャグ描写も秀逸で、主人公がテキトーすぎる略語を並び立ててさも凄そうな話をでっち上げて人事部の凶暴なオンナたちを誘導するシーンとか、カラン・ソーニ演じる非暴力主義のインド人が「人を殺したくない」と言いつつ思わぬ事故でいろんな人々をアクシデントキルしていく様も面白いし、ヒロインが中途半端にエナドリを飲んだせいで凶暴になったりならなかったりで「元々この女やべー奴なのでは」と観客も主人公も思い始めている所とか実に楽しい。

 ラスボスとなるクソ上司も凶暴化して以降は宣伝部の兄ちゃんを首チョンパしたり、世界征服をめちゃくちゃIQ低い状態で実行しようと躍起になっていたりして悪役キャラとしてもバリバリの存在感で最高。とてもDCのヒーローやってた人には見えないのが素晴らしい。


 根本的にはしょうもないバカ映画とアイディア一発取りのような作品であるが、全体に流れるコメディアクションとしての洗練さや、最後まで物語をグイグイ引っ張る熱量の高さなど、総じて目を見張る点の多い逸品である。

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