愛娘を失ったリーサルウェポンの壮絶な復讐劇……「復讐捜査線」

 ――ボストン市警の刑事、トーマス・クレイブンは愛娘のエマを病院へ送ろうとした矢先、玄関口で何者かによって襲撃されエマを凶弾で失う。悲しみにくれるクレイブンは規則のためこの事件の捜査から外され、警察はクレイブンを目的とした暗殺未遂事件として捜査を開始する。だが、この事件の背後にただならない物を感じ取ったクレイブンは、たった独りで捜査を開始する。やがて、クレイブンは政府や大企業が絡むおぞましい陰謀へと巻き込まれていく――


 2010年に公開されたメル・ギブソン主演のサスペンス映画。監督は「007/カジノロワイヤル」「ゴールデンアイ」のマーティン・キャンベル。同監督が英国BBCにて制作した刑事ドラマ「刑事ロニー・クレイブン」のリメイク作品であり、舞台を1980年代のイギリスから2010年代のボストンへと移しているほか、今作は09年に亡くなったオリジナル版の脚本家トロイ・ケネディ・マーティンに捧げられている。


 見ていて胃にズッシリと来る内容の作品である。ベテラン刑事が愛娘を失われた悲しみを胸に復讐のための捜査を続けていく……と言う概要の時点で明るさもクソも無さそうな暗い話になりそうなのだが、実際に滅茶苦茶暗い内容である。冒頭から娘の成長を記録したホームビデオを流しているせいで主人公への感情移入がハンパないが、それすらも途方もない陰謀劇のたった始まりにすぎないというサスペンス映画の盛り上がりも見る事が出来る。


 何よりもメル・ギブソンの演技もよい。リーサル・ウェポンやマッドマックスの頃から「危ないヤツやらせたらピカイチ」という男だったメル・ギブソンが復讐の鬼と化している今作は重苦しいサスペンスの中で「暴れまわって娘を殺した野郎どもをシバき倒す!」という復讐物としてカタルシスがちゃんと盛り込まれているため、見ていて安心できる部分もあるだろうし、そんなメル・ギブソンがあの特有のブチギレ目で淡々と、時には激情たっぷりに敵を追い詰めていく部分は今作唯一の清涼剤たる部分だろう。


 もちろん敵対する連中も映画の悪役としてこれでもかという逸材を揃っている。「放射性物質を扱う大企業社長」「その企業と癒着する政治家」「その両者の手下となって動くエージェントたち」というどう足掻いても正義の鉄槌を下されるであろう連中があの手この手で主人公を陥れ、自らの悪事を隠蔽しようと画策している。

 そういった連中との追撃や罠をいかにちっぽけな一個人でしかない主人公がどう切り抜けるか、という部分もサスペンスを上手く盛り上げていた。


 とはいえ本題はサスペンスなのでアクションは控えめ。「復讐捜査線」という大雑把な邦題(原題はEdge Of Darkness)に「娘の仇は、俺が撃つ!」という惹句、そして日本版ジャケットのカッコよく拳銃を構えるメル・ギブソンの容姿にどうしてもド派手なアクション大作を思い浮かべてしまうし、ちょっと宣伝ミスな気もしなくはないが、オススメだ。

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