第71話 儀式(sideオスカー)
異性の専属神官を迎えると、本人から神官に言われることはそうそうない。それも、女神官が言われるならまだしも、男神官がご令嬢からスカウトされるのは異例だ。
高い神官位にある神官を専属に引き抜くにはいくつか含まれる意味がある。
ただ、高位にいる異性の神官を引き抜くときには大抵意味はひとつ。結婚を見越してである。
普通、ヒーラーとして神官を引き抜くなら同性を選ぶ。当然だが、異性を近くに置く、それも場合によっては寝所に招くことになるのは体裁が悪いからだ。
「私は幸福に生きるの」
こうして情緒の欠片もなく、こんな年下からプロポーズされるとは予想外だ。
単に能力と血筋を買われているのはわかっている。普通は忌避する元奴隷を見習い騎士にして、自身の護衛に取り立てるまでするフローラからしたら、神官の叔父にプロポーズするなんて、些細なことなのだろう。
この娘は成人する気がない。
精霊から高確率で死ぬと言われているからか、成人しないなら体裁もなにも関係ないと言わんばかりの対応だ。
フローラは、優秀な人材をラングレーに引き留めるための手段と思っているから、その後を想定していない。
「私の名を預ける。オスカー・エウラリア・ルクス・ラングレーは、フローラ・ラングレーを主とすることを女神と精霊に誓う」
ルクスは神官位としては上から2つ目、クエーサーの次になる。ルクス以上の神官を還俗させるには、貴族と婚姻する以外の方法はない。
それを見越しての専属神官の依頼だろうが、一体何が目的だ。
公爵を引き摺り下ろすのは、優秀なフローラがいるなら、数年すれば望まなくても勝手に臣下が行うだろう。
爵位を取り合う仲になる私を還俗させて手元に置く意味はなんだ?
まさか自分が生きている間だけ仕えて、その後は好きにしろと?
それとも、本当に自分が死んだあとのことを見据えているのか?
血の近い私が神官でラングレーに戻って来れなくならないように。
仮に私がいなくても、他領の貴族令嬢を娶って護衛騎士たちがラングレーを継げるようにという複線を張るフローラなら、ただ手元で働けという意味だけで私と婚約を選ぶとは思えない。
「我が道を共に歩む仲間を得たことを、女神に感謝致します。精霊の導きを信じ、光と闇の調和を願います」
人生を共に歩む?本気で結婚する気なのか?夫婦円満を表す光と闇の調和を願うとはどういうつもりだ。
同性なら相棒として、腹心として足りないところを補うという意味合いが強くなるが、異性の専属神官を望んで、この文言は間違いなく、人生を共に歩みましょうだ。
それにしても、精霊に夭逝を予言されている娘が精霊の導きを信じるなんて滑稽だ。
思わず笑えば、子どもが親を見つけて安心したようにフローラが微笑んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます