第47話 お転婆なお嬢様
后妃様の命と思って私とレオンが后妃様の近くに寄ってすぐに事件は起きた。
チェスター・ラングレーにエスコートされる皇妃様は思わず息を飲む美しさだ。
陽にあたり輝く銀色の髪に、少し赤みの入った頬、エメラルドのような美しい目は損なわれていない。
やはり疲労をしていても后妃様は美しいと思って近づいて改めて見惚れたその直後、乾いた小気味のいい音が響いた。エスコートされている手を引き抜いて、チェスター・ラングレーを平手打ちしていた。
「お久しぶりですね、お父様。私はとても怒っているわ。あなたたちがここでのほほーんと暮らしていた4年間に怒っているの、わかる?」
大人しくオスカーのエスコートによって馬車から降りた実息子のハリスですら目を点にして第2皇妃様を見ている。
さきほどまでの優しい母親、国母としてふさわしい皇妃様はどこへやら。
ついでに、神々しさもどこかへ飛んでいき、今ここにいるのは激昂している一人の女性だ。
王都からついてきていた数名の騎士と女官が「やってしまった」と頭を抱えていることから意外とお転婆なのかもしれない。
「ろ、ロベリアや」
「フローラちゃんはあなたの孫娘でしょ!信じられないわ。あんなに虐待を受けている孫娘を助けられる立場にいながら傍観していたわけ?もしかして一度もあってないの?何の制約もないくせに、どうして我が身しかかわいくないの?!
会うだけで手続きがたっくさんあるハリスには会いに来たくせに、王都の屋敷に幽閉されていた彼女には会ってないの?それでも人なの?」
私のことで怒っていると気がついて、慌てて止めようとするが、そんな5歳児に止められるような激昂ではなかったらしい。
むしろ「フローラちゃんはいいの」と言って私には微笑みかけてくれた。
全然よくない、そしてそうじゃない。
皇妃様にそこまでされたらハリスに婚約をご遠慮したいのを伝えられなくなる。
ついでにこの屋敷でやりたいことがいくつかある。
構われすぎてもめんどくさいし、予定が狂ってしまう。
いつも通りがいいのですが。
「し、信じられる!?5歳の、ハリスと同い年の女の子が。私とハリスを護りきれなかったら自分たちが殺されると思って騎士服を着て、武器をもって護衛するのよ!どうして大人が護ってあげないのよ!一番彼女を護っているのはレオンくんじゃないの!
どうしてオスカーで反省してないの、もう耄碌してるの!?それとも節穴なの?!」
やーめーてー。話を聞いてください。しかも結構口が悪い。
それに伝えてないはずのことまで丸っと知っている。これを伝えたのは誰よ。
エリアス?それともオスカー?
まだ家に入っていない場所で大きな声を出して皇妃様が私のことをかばうから、小さな屋敷の丘の下にある村の人たちがめっちゃこっち見てる。
オスカーを見上げるが、あさっての方向を向いて、どこ吹く風だ。
仮にも姉弟、理解とあきらめが早い、こうなったら無理といった様子がにじみ出ている。
「フローラ!」
急激な温度低下と同時に突き飛ばされる。
鍛錬の賜物で受け身を取って転がるが、状況はすぐにつかめない。今の声はレオンだった。レオンは意味もなく私を突き飛ばさないし、寒いということはラングレー式の剣が抜かれている。
屋敷からでてきた護衛のうちの一人がレオンと剣を合わせている。
というよりも私を狙って切りかかってきたところをレオンが受け止めて、そこから力比べになってしまっている。
いくら才能あるといってもレオンも子ども、持たない。
違う。
私がここで襲われるはずがない。
ラングレーの名前を傷付けるのをいとわずここでやってくる勢力としては、ハリスを狙う方のはずだ。
「オスカー!殿下を護れ!狙いは私ではない、殿下と后妃様だ」
「噂通りの厄介なガキだ」
レオンを抑え込んでいる騎士、騎士ではなくおそらく雇われの傭兵に向かって石を投げつけるとその隙を逃さずレオンが動き出す。
これで何とかしてくれと祈ってレオンには背を向ける。
護るべきは自分の護衛騎士でも、情でもなく、護衛対象だ。
鍛錬なんてしているはずもない后妃様とハリスの安全の確保が最優先だ。
レオンは信じるしかない。それに私から離れればわざわざ狙われないはずだ。
二人に近づく傭兵とオスカーが斬り結んでいる。よく一人で複数人相手できる、どんな神官だ。
「后妃様、殿下、急ぎ中へ」
「後ろ!」
オスカーの声に反応して、ハリスの後ろに近づく男に手を伸ばす。
サイズなんてどうでもいい、現出しろ!
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