第35話 とある行商隊
ラングレーの視察団の到着を聞いて挨拶の際に目立たなかった何人かが一行を見に行った。
生憎とジェリクと自己紹介をして挨拶をした私は外に出れない。
他にも行商隊として挨拶をした隊長役等の目立った何名かは私と共に拠点に残っている。
わざわざ護衛にエリアス・ベルツが出張ってきている。不用意に出歩くのは危険だ。
今の私ができることといえば、見に行った何人かが戻るまで、協力者の家でのんびりと報告書を書くぐらいしかできない。
「アイザックさま!」
視察団を見に行ったはずの1名が血相を変えて部屋に飛び込んできた。
きた。
必ず何かあると思っていた。
今度も攫われたか?それとも撃退したか?
ラングレー領主の奥方として潜入して長い諜報員が義理の娘を放逐しておくはずがない。
それも有能だからと今は第2王子の后候補になっていると聞く。あの蝶が、自分に都合の悪い義理の娘を将来の后候補になんてするはずがない。
「どうしたんだい?そんなに顔を青ざめさせて、誰か水を」
「いえ、いいえ、さきに」
偽装のために上からつけていたつけ髭をもぎ取って彼は深呼吸をする。
「どうした、落ち着いて話せ」
「花のお嬢様が、精霊と話されていました」
想定外の報告が投下された。
ああ、なるほどね。それはラングレー領主も躍起になって后候補にするよ。
精霊と話せる多大な魔力の保持者なんて、存在だけで政治利用の価値がある。
その能力は女神の加護に等しい、その能力を麒麟児が持っているなら無理をしてでもラングレー領主は彼女を后候補にするだろう。
続く彼の話で、フローラお嬢様がルークルーズにどのように指示をしたかを聞く。
今回は不作に悩むルークルーズで、精霊と話して解決策を与えた?最高じゃないか。
飢饉を回避する術を持つだけで、国益だ。
本人がただ頭いいだけでも、見目が良くても、魔力が高くても、その程度なら他にもいる。
だが、彼女はそんな枠から大きく外れてきた。
「ふっ、あははは!!
納得、納得だよ。だから彼女は自力で助けを求めて、無傷で誘拐犯から逃げられたんだ。
そして、今は人生をかけた蝶の作戦を台無しにしていると、これは本物だ」
やる気がなく途中途中でインク溜まりを作っていた紙を退けて、報告書ではなく、指示書と嘆願書を手早く作成する。
こういうときにはサラサラと文言が出てくるのが不思議だ。
「アイザックさま、どうされますか?」
「決まってるだろ、ムーンフィストから彼女へ婚約の打診をだせ。できるだけ早くだ。第二王子ハリスと婚約発表されるより早く」
この国が彼女を手放さないと決断するより早く出さなければいけない。
あぁ、ムーンフィストと国交を正常にしておきたい人たちが慌てるように、ある一派をけしかけておかないと。
危機感があれば、他国へ公爵令嬢を嫁がせる結論が出るに違いない。
「予想以上だよ、面白い。必ず手に入れてやる、フローラ・ラングレー」
もちろん彼女の姿は家々に阻まれて見えない。
それでも居るはずの方向へ向かって笑った。
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