クエスト1-8 遅すぎる前進

 

「ん……」

「…起きた」

 気がつくと、トルカが俺の顔を覗き込んでいた。



 そうだ、勝負は!? ラガードとの決着はどうなった!? 俺あの後何も覚えてないぞ!?




 俺は飛び起きようとし、派手な音を立てて転げ落ちてた。



「ん゛っ……ん?」


 いっ……たくないぞ?




 自分の身体を触ってみると、あるはずの打撲痕も切り傷も無い。地面に突き刺さっていたはずの勇者の剣は腕輪となって俺の右腕に収まっている。



「……シンヤ、大丈夫?」



 トルカは俺の頰をつんつんしながら聞いてくる。



「あ、ああ。一応」



 立ち上がり、改めて周囲を見回すと、俺は酒場の中にいた。俺が寝ていたと思しき方を見ると、椅子がベッドのように並べられている。


 俺とトルカの周囲には結構人が集まっており、俺の醜態をみてゲラゲラ笑ってる冒険者もいた。



 畜生! 笑いたきゃ笑っとけよもう!!





「おいおい、随分と騒がしいお目覚めだなぁ。それより、見たぞ! マイティドッグを退けるとは、中々やるじゃねぇか!」


 勝負前に声をかけてきた二槍流……二槍流? の冒険者に声をかけられた。



「おお……そうだ、あの後どうなったんだ? ラガードは?」



 思わず早口になっていた俺を、二槍流の冒険者は手で制す。




「まあ落ち着けよ、順を追って話してやる」




 そいつが言うには、俺は勝負が決した後に気を失って倒れたらしい。緊張の糸が切れたからかもしれない。


 で、それに気付いたラガードがもう一度襲いかかろうとしたところにトルカがゼロ距離で魔法を撃ち込み、ラガードは重症。ヴァシも魔法が消滅した後気絶して、唯一無事だったポルメリアとトルカが戦後処理を行ったそうだ。




 ポルメリアは何かと文句をつけようとしたらしいが、観衆という名の証人が山ほどいる上に、トルカが何らかの形で脅したらしく、5,000Gほどふんだくった上に建物等の修理費と双方の治療費を向こうに全額押し付けた、との事。


 それで俺の身体が治ってるわけだ。

 トルカの脅迫に関しては……溜まってたんだろうな、鬱憤が。





 で、俺はというと観衆の一部の人にここへ担ぎ込まれ、トルカ共々聖職者の回復魔法を受けた、という事らしい。


 こういった決闘はこの国では禁止されていない代わりに、治療が義務付けられている。基本的にガチの戦いなので死人が出ることもあるらしいが、治療の義務のおかげでその確率は稀……と言われている。





「まあ、そういうこった。約束通り、今日は俺の奢りだ、好きなだけ頼めよお二人さん」

「ええ、では遠慮なく」

「……遠慮、なく」




 約束なので俺達は好きなものを注文し、食べる。トルカも珍しくウキウキで食事を取っていた。



「上機嫌だな、トルカ」

「……うん。あいつら、やっつけた。トルカ、すっきり」


 そう話すトルカの表情はとても清々しいものだった。


「そっか」



 彼女にとっては因縁の相手を自身の手で下したわけだ。そりゃ溜飲が下がるというものだろうよ。

 ウザ絡みされた俺もスッとしたし。




「シンヤ」

「ん?」

「……巻き込んで、ごめん。それと、ありがとう」

「どういたしまして。ただ、次からはもっと冷静になろうな」

「……ごめん」

「そんなに謝らなくていいさ、過ぎた事だ。それに、無事勝てたしな。そうだろ?」

「……うん」





 普段はパンと野菜スープ程度なのだが、今日はステーキとかも注文してみる。


 美味い。噛む程に肉汁が口の中で広がる。肉厚なので食いごたえも抜群だ。かつての世界では中々こんなものは食べられないだろう。

 こっちでもそう簡単にはありつけないかもしれないが。


 いずれにせよ、すごく美味い。





 高価なメニューを注文しても顔色を買えなかったあの冒険者、かなり稼いでいるのか、それとも痩せ我慢が上手いのか……


 ま、どっちでもいいか。米が恋しいが、ここには無い。いつか出会うと信じよう。





 ……………………







 ………………





 食事を終えて宿に戻る。予定通り明日はこの街を出発するつもりだ。



 寝る前にふと気になって窓から外の景色を眺めた。

 そこには、向こうじゃ田舎でもお目にかかれないような星空が広がっていた。


 そのどんな星よりも一際目を惹くのが、満ち欠けが正反対な2つの月。


 片方が青く、もう片方が緑に輝く姿は、俺が異世界にいる事実をはっきり突きつける。




 思えば、マイティドッグとの戦いでは俺は大した戦果を挙げていなかった。実力差や役割上の都合といった事情は、今の俺には全て言い訳にしか聞こえない。

 事の発端はトルカだが、彼女がいなければ負けていた。



「はぁ……」


 ため息とともに、ベッドへ倒れこむ。



 強くなろうにも、俺の成長スピードはかなり鈍化している。レベルを上げて物理で殴ればいいとは言うが、そのレベルが上がらないならどうしようもない。勇者の剣だって、所詮はよく切れるだけのただの剣。当たらなければ意味が無い。




「寝るか……」



 考えても仕方ないか。こんな時は寝るに限る。







 ……………………








 ………………








 次の日の朝、俺達は必要な道具を買い込んだ後、ワーテルを出た。見慣れたこのクソミドリともお別れだ。一度だけ振り返り、トルカと共に道を辿って森へと向かう。


「トルカ、準備はいいか?」

「うん」



 かなり遅いスタートであったが、俺の勇者としての冒険の旅が、ついに幕を開けた。






 ――現在のギルドカード――




 名前:シンヤ・ハギ   種族:荒野の民

 属性:無  レベル:17 職業:勇者

 体力:36 魔力:0

 筋力:30 敏捷:29

 創造:2  器用:20




 名前:トルカ・プロウン 種族:森の民

 属性:氷   レベル:10 職業:魔法使い

 体力:11  魔力:101

 筋力:2   敏捷:12

 創造:105 器用:1

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