クエスト1-4 シンヤ、ソロ専やめるってよ

 

 この世界に来てから10ヶ月が経った。



 先へ進む事はなく、相変わらず筋トレとレベル上げの日々が続いている。

 今のレベルは15。





 名前:シンヤ・ハギ   種族:荒野の民

 属性:無  レベル:15 職業:勇者

 体力:30 魔力:0

 筋力:24 敏捷:23

 創造:2  器用:18




 トレーニングの時間は7時間程まで短縮可能になった。回数はまだ増やしてない。


 薬草ありとはいえ、やれば意外とできるものだ。


 最近は空いた時間の一部を字の書き取り練習に充てている。

 字の法則はローマ字のそれに近いので、思ったより苦戦はしてない。





 それはいいのだが、レベル10以降一気にレベルアップスピードが鈍化してしまった。

 1〜5までは2週間、6〜10まで約1ヶ月だったが、それ以降は1ヶ月かけてやっと1レベルのペースになってしまっている。


 レベル10になってからは書き取り練習を始めたので、それをやらなければもう少し早かったかもしれない。




 ウルツに聞いたところ、ここ南ベルデン地方の敵は弱い上に集団で出現しないので、冒険者として安定し始めるレベル10を超えると途端に伸びが悪化するらしい。

 難儀だが、成長限界というわけではなさそうなのでとりあえずは一安心。




 それはさておき、今まさしくレベル上げに勤しんでいる俺は、平原の真ん中で薬草を食っている。


 身体にクローラーの攻撃を受けてしまってな……。





  ちなみにこの世界の薬草は、身体の傷を即座に塞いでくれるが、その際に負った痛みが濃縮して返ってくる仕組みだ。


  しかも傷を受けたところは暫くの間麻痺する。使いどころを間違えればかえって死に近づいてしまう。






  これからどの辺で狩るかを思案していると、どこからか爆発音がした。距離的にはそう遠くない。冒険者が戦ってるのか?



  そうだとしたら、冒険者の戦いを見ることによって何か参考にできる立ち回りが観れるかもしれない。ちょっと覗き見しに行ってみるか。


  や、野次馬根性発揮したわけじゃないぞ! これは勉強だかんな!



  そういう訳で現場にやってくると、魔法使いの女の子がクローラーと戦っていた。


「このっ! このっ!!」



  女の子はさっきから魔法を撃ちながら逃げ回っているが、全く命中していない上に足が遅くて逃げきれていない。


  おまけに息も上がっている。

 放っておけば大変な事になるのは明白だ。



  クローラーのタックルの痛さを知ってる身としては放っておくわけにはいかない。魔法使いは脆いというRPGの常識が通用するなら、最悪一撃死もあり得る。



「うおおおおおおお!!!」





  大声をあげて飛び出し、クローラーの注意を逸らす。


 クローラーは声に反応し、俺に狙いを変える。

 よし、ここまでは想定通りだ。



「はあっ!」



  その後は今まで通りに、予備動作に気をつけながら攻撃を与えていく。







 クローラーが身体を持ち上げたらクローラーの横に来るようにステップ。身体が伸びきっている間に叩く。これの繰り返しだ。







  パターンが分かってしまえば、それほど怖くなはない。






「これでどうだっ!」






  順調にダメージを与えていき、クローラーを撃破する。





「怪我はないか?」



 女の子は頷く。

 疲れからなのか、女の子は地面にへたり込んでいた。

 いつぞやの俺みたいだ。




  あれ、そういえばこの子どっかで見たことあるぞ?





「あの時の……人……?」




  女の子はじっと俺の顔を見ていたが、おずおずと聞いてきた。

 俺は隣に座って確認してみる。




「き、君はあの時の……」



  小柄な身体に若干ふんわりした、水色の肩に届くかどうかの髪、赤と青のオッドアイ、マフラー、それにとんがり帽子……


  間違いない、転生初日、初陣前に助けた女の子だ。



「なんで……助けた……?」

「誰かを助けるのにいちいち理由なんかいるかよ。ま、強いて言うなら……寝覚めが悪くなるから」

「……別に、助けなくて、いいのに……」

「えっと、その……何か、あったのか?」

「……パーティを、外された」



 は?どこの誰だか知らんが貴重な魔法職を外すなんて、どういうつもりだ? 魔法職を求めるも見つからない俺に対して喧嘩売ってんのか? ん?


 ……という個人的感情はさておき、この子の状況としてはパーティをクビになって生活が苦しくなった、ということだろうか。

 魔法使いのソロはきつそうだし。




「お前は、出来損ないの屑だ、って。いらない、って……」

「……そうか」




 女の子は膝を抱える。

 しかし、酒場の女主人の言葉が本当なら魔法使いを捨てるなんてとんでもない事だと思うのだが、一体どういうことだ?






「……もう、行くところも、帰るところも、分からない……」



 女の子は帽子を深く被る。

 口元までマフラーで隠しているので、完全に表情が見えなくなってしまった。


 流石にこれを見過ごすとあれば寝覚めが悪い。





「……だったらさ、その……俺、魔王討伐の旅の途中なんだけどさ、良かったらパーティを組んでくれないか?俺も、一人なんだ。出来れば、力を貸してほしい」

「…………」



 女の子からの反応はない。


 だが、ここで諦めたらソロ活動は終わらない。ここでどう説得するかが分水嶺だ。



「大丈夫だ、俺は見捨てない、絶対にだ。約束する。なんなら、もし捨てようとした時に俺を殺したって構わない。何があったかは分からないけど、俺が君の面倒を見る。君の力を借りたい。だからパーティ組んでくださいもうソロ専は限界なんです! お願いします! 何卒! 何卒!!」


 日本人に伝わる秘技・土下座。

 この世界でこれが通じるかは怪しい上に途中から自分でも何言ってるか分からなくなってきたが、もはやなり振り構ってはいられない。


 言い方は悪いかもしれないが、魔法使いを仲間に引き入れるチャンスだ! 見逃せるか!!



「……本当?」



  女の子は帽子をあげ、こちらをじっと見つめる。

 顔を上げると、目が合う。

 こちらを見つめる瞳は俺の心を見透かされているようで、何だか緊張する。



「ああ、本当だ」



 ここで負けたらまたソロ活動だぞ、俺!



「……分かった……いいよ」



 女の子は頷いてくれた。

 あまり信じてなさそうな表情だが、そこは信頼を勝ち取ればいい。



  と、ともかくだ。


 異世界に来てから10ヶ月、ようやくできたパーティメンバー! ソロ活動からついにおさらばだ! これでやっと前に進める!



 ……って10ヶ月もソロやってたのかよ。嘘だろ?





「ありがとう、本当にありがとう。俺はシンヤ。シンヤ・ハギだ。よろしく」

「……トルカ。トルカ・プロウン……」



  トルカがギルドカードを見せてきたので、俺もギルドカードを見せる。


  おそらくパーティを組んだ時の決まり事だろう。お互いの能力を知らなきゃ連携なんてできやしないだろうしな。どれどれ……




 名前:トルカ・プロウン 種族:森の民

 属性:氷  レベル:4 職業:魔法使い

 体力:4  魔力:56

 筋力:2  敏捷:6

 創造:60 器用:1



 森の民……初めて見る種族だ。


 トルカをよく見てみると、もみあげで少し隠れた耳は人間のそれではなく、細長く尖った形をしている、所謂エルフ耳ってやつだ。

 ということは森の民はエルフにあたる種族なんだろうか。




 いや、そんなことはどうでもいい。驚くべきは彼女のステータスだ。


 体力、筋力、敏捷は低いが、魔力と創造がずば抜けている。俺の半分以下のレベルなのに俺の体力の倍近くある。

 器用が1なのは気になるが、これはどうにでもなるはずだ。ならないなら俺がするしかねぇ。


  要するにトルカは間違いなく強いし、この先もっと強くなるだろう。

 俺ももっと頑張らなくては。


 にしても、これだけの実力があって何で捨てられるんだ?




 一通りチェックし、 俺とトルカはお互いのギルドカードを返す。



「街へ戻ろう。立てるか?」


 そう言って手を差し伸べる。


「ん」


  トルカは一瞬のためらいの後に俺の手を取り、立ち上がる。

 彼女の手は冷たかった。



  少し早いが、俺達は街に戻ることに。

 今日は結成祝いだ。



 ……………………







 ………………





  街に戻ってくると、早速酒場に向かう。

 依頼報告を終わらせて、食事の時間だ。

 俺はパンと野菜スープを、トルカはサラダを頼んだ。



「トルカ……その、組んでくれてありがとう。俺のステータスじゃ、対して役に立てないかもしれんが……」



 本当は組んでくれて良かったのか、と言おうとしたが、これはちょっと失礼な気がしてやめた。


「……うん」


 トルカの返事は素っ気ない。

 あまり会話を得意とするタイプではなさそうだ。



「飯代は奢るよ」

「……ほんと?」



 トルカの声が少し明るくなる。


「ああ。追加したいなら何でも頼んでいいぜ。金はそこそこあるし」



 毎日の稼ぎのおかげで資金には結構余裕はある。使い道があまり無かったとも言う。ソロだし。




 飯を食べていると、トルカがある方向を見ているのに気が付く。

 その方向を見ると、談笑する女性パーティのテーブルに、パンケーキがあった。



「食べたいのか? パンケーキ」

「!?」



 トルカに滅茶苦茶驚かれた。



「あ、いや、ごめん。驚かすつもりじゃなかったんだ……」

「……」

「パンケーキ、頼もうか?」

「……うん」



 トルカは頷いた。





 美味しそうにパンケーキを頬張るトルカの姿は年頃の子供そのもので、何となく安心した。





 食事が終わった後は、宿屋に向かう。

  この街の宿屋の数はそれなりにあるが、偶然にもトルカは同じ宿を取っていた。


  いつもの酒場にも宿屋は併設されているのだが、予約が多くて入れないしちょっと高いので、近くにあるワンランク下の宿屋に泊まっている。

 素朴ながら落ち着く雰囲気の場所だ。



 俺の部屋で、地図を広げて今後の予定を2人で考える。



「これからの予定だけど、まずは明日、トルカの魔法を見せてもらっていいかな?どんな魔法が使えるか把握しておけば、戦いやすくなるしさ。それからレベル上げをしつつ、魔王の情報を集める」

「……分かった」

「まだ魔王の情報はほとんど無いし、俺達もまだまだ弱い。暫くはレベル上げばかりになると思う」

「……うん」



 ……話題が尽きた。



「えーっと……何か聞きたいこととかあるか?何でもいいよ」

「……シンヤは、何で魔王、倒すの?」


 結構根源的なことを聞かれた。


「うーん……約束したから、というか……まだ終わりたくないから、というか……まあ、色々だな」


 あの女神の言うことが正しければ、魔王討伐の話を蹴っていたら俺は今頃無に還ってた頃だ。


 ぶっちゃけ魔王放置してこのままここで生活することも可能といえば可能だが、それは筋が通らない。


 それに、生前は大したことは何も出来なかった。そんな自分に打ち勝ちたいという気持ちもある。見返したい奴もいる。いやここにはいないけど。


 ただ、元の世界に帰りたいかと聞かれれば……どうだろう。米は食いたいけど。




 言葉で纏められる自信がないので、今は適当にはぐらかしておく。いずれちゃんと言える日が来るはずだ。





「ふーん……よく分からない。けど、トルカ、頑張る」

「ああ、頼んだぜ」


 他にやる事も無いのでトルカを部屋に送り、筋トレを少しやってから眠りにつく。

 




  しかし、パーティかぁ。

 うまくやっていけるだろうか?

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