撫子 9

 陽が暮れる直前、ドアの見張りの交代のため夜さまは蘇芳の傍を離れ、陽が落ちきる前にはくぅが一人で戻ってきた。

「夜さまに聞いたよぉー。『ドア』のこと、強引に聞き出したんだってねぇ? イライラするからーって」

 夕飯の御膳を二人で並べ食しながら、くぅはチクチクとトゲを纏った文言を放った。

「『強引に』ってなんだ、『合意の上で』だっ。つーか中途半端にされんのがムカつくんだからしゃーねぇだろ」

「すぅちゃんって短気ィー」

 そんなジト目を「ウルセェ」とかわし、雑炊を大口へ詰め込む。

 そんな調子でヤイヤイと雑談をしながら、その夜二人はやがて眠りについた。

 蘇芳は、その日初めて無音の入眠を体感した。

 名を呼ぶ人物の影が現れない。それは『重要な出逢い』を果たしたからであろうと、眠りに落ちながら納得していた。

 寂しいやらホッとしたような、戸惑いのような複雑な気持ちに、蘇芳は不思議な心地よさを感じたのである。



       ◆



 五日目。

「すぅちゃん、すぅちゃん。朝ごはん!」

 そうしてくぅに揺り動かされるまで、蘇芳は夢も視ずに眠っていた。そんな経験は今までに無い。蘇芳は少しだけ心持ちが晴れやかであった。

「俺、反物屋の運びの手伝いあるからそっち行くけど。くぅはどうする?」

 平らげた朝食の御膳を運びながら、蘇芳は後ろから着いてくるくぅへと訊ねた。歩く度に皿がカチャカチャと小さく鳴る。

「くぅ、夜さまと交代してこなくちゃ!」

「っそ。じゃ夜さまにも俺の行き先伝えといてな」

「ほーいっ」

 蘇芳は反物屋の手伝いの件について白木へ説明に向かうと、逆に「手伝い、また頼むぞ」と先を越された。

今朝方けさがたこんどのが顔を出してな。城で落ち合おうと申しておった」

「城にまっすぐ行け、ってことっスか」

「そのようだ。まぁ、行ってみるといい」

 眉をハの字に口元を緩め「ウス」と意気込み米問屋を後にした。

 小走りに城門まで来ると、柔道部員を思わせる恰幅のいい門番が二人並んでいた。歳は恐らく蘇芳よりも一〇は上であろう。

「何用か」

 ジロリと見下ろすような目付きの悪さは、昨日の朝に立っていた門番とは格段に気迫が違う。蘇芳はゴクリと生唾を呑むと、つい声が裏返ってしまった。

「えっと、反物……んんっ! 反物屋のこんさんに、呼ばれて来ました。積み荷の護衛っス」

「名は」

「蘇芳です」

 二人の門番は目配せの後に、ズゴゴゴ、と重苦しい音をたてて門をゆっくりと開けてくれた。そして、蘇芳から見て右に立っていた彼が「来い」と入城を促しその奥へと先導した。

 屋敷本邸へ上がる手前で、まるで玄関のように草鞋を脱いだが「持って行け」と門番に睨まれた。苦笑いを混ぜつつ、接地面を内側に合わせ懐へとしまう。

 そのままギィギィと踏み鳴る通路を門番に続き歩いていた。

 少しもしないうちに、小さな中庭を挟んだ向こう側の通路を行く人影に気が付いた。蘇芳の足が勝手に止まる。瞳孔が無意識に開く。

 撫子であった。

 侍女三人にその前後を挟まれ、どこかへ向かうようだ。

「なで──」

 声を掛けようとそこまで口にしたところで、蘇芳はグッと声を詰まらせた。

 浮かれ興奮し、周りが見えなくなり、この時代相応の距離感を忘れたのは誰であったか。それを恥じ悔やんでいたのは誰であったか。

 蘇芳は目を伏せ奥歯を噛み締めると、門番の彼の背に続こうと再び足を踏み出した。

「──蘇芳っ」

「!」

 その声に、伏せた目を上げそちらを見やる。

 撫子もまた、驚いたようにぽっかりと口を開け立ち止まっていた。胸の辺りがきゅ、と縮む。

「ウス、姫様」

 そうして一瞬上げた口角を残し、極力彼女を見ないようギギッとぎこちなく頭を下げた。

 とたとたとた、と軽い足音がコの字型に曲がった先からこちらへ向かってくる。

「お戻りを、姫様っ」

「姫様!」

「そちらではございませぬ!」

「あれはこんの遣いだ、後は私が引き受ける。そなたたちは下がって良い」

 恐る恐る顔を上げると、撫子は連れていた侍女らをその場に留まらせ、蘇芳の前にいる門番へと近付いて来た。

「そなたも持ち場へ戻りなさい。その者は私が案内する」

「し、しかし……」

「聞けぬと申すか」

 撫子の強い口調。それは姫君としての権限を行使するときに発する口調なのだと、蘇芳は気が付く。

 あんなに大きそうに見えた門番も、撫子の一言で小さく縮んでしまった。半ば渋るように片膝を付いた門番は、「仰せのままに」と頭を下げると、蘇芳の右脇をすり抜け門へと帰っていった。蘇芳はその背をつい視線で追っていた。

こんの元へ行くのであろう? 私もなのだ、案内しよう」

 頭に浮かんだハテナが増え続ける中、そう言う撫子をゆっくりと振り返る。

「えっ、けど──」「さぁ、着いて参れ」

 強引にそうして言葉を被せ、撫子はくるりと薄紅色の羽織を翻し蘇芳の前を行った。何がどうなっているのやら、と蘇芳は申し訳無さを感じつつ撫子の後に続く。

 通路で頭を下げ続ける侍女三人は、着いて来なかった。ワガママおてんば姫のお世話は大変なんだろうなと、蘇芳は苦笑を溢した。

 撫子の歩みはやはり片足を引き摺るようなもので、その低い背丈がピョコピョコと上下する。思わぬ愛らしさについ口元がぐにゃりと緩む。

「あの……」

「…………」

 蘇芳は声をかけようかと口の開け閉めを繰り返していたが、撫子は無言で振り返らずに歩き続けている。独特の緊張感をその背に感じつつ、蘇芳は前髪をくしゃりとした。

 突然、とある角を曲がると同時に蘇芳の右腕をグイッと引き、近くの一室へ強引に押し込んだ。瞬く間に自らもそこへ入り、ピシャリと襖を閉め、誰も着いて来ていないことを音で確認し終わるまで蘇芳に背を向けた。

「なっ、撫──」「静かにっ」

 口をつぐみ耳をすますと、遠く鳥のさえずりが聴こえた。

 近付く人間の足音は無い。呼吸の音も消し去りたいほどシンと静かで、反比例するように心臓の音は大きくなる。

「…………」

「…………」

 撫子はようやくフゥーと肩の力を抜くと、体勢をそのままに静かに口を開いた。

「驚いたぞ、まさか毎日城へ顔を出してくれるとはな」

「あ、あぁ。昨日反物運んだだろ? それの回収しに来たんだ。俺は反物の護衛係」

「そっ、そう、であったか」

 部屋が薄暗い。その事がなんとなく、蘇芳を緊張させる。

「あー、あのさァ、撫子」

 ぎこちなさを打ち消すようわざと声を出し、瞼を上げ撫子の後頭部を見詰めた。

 くるりとゆっくり振り返る撫子の眼に動揺し、蘇芳は視線を足元へ落とす。蘇芳にとって、誰よりも麗しく魅力的に映ってしまう彼女の瞳を見詰め返す自信が無かったためだ。

「ホントはもっと早く謝りたかったんだけど。昨日は、悪かった、ホントに。怖がらせたのと、失礼、だったから」

「よい、済んだことだ。それに、冷静さを欠いた私も、良くなかった」

 そんなこと、と蘇芳は少しだけ瞼を上げる。撫子も俯いているようだとわかる。

「それより、今日は体は大事ないのか」

 チラリと撫子は蘇芳の様子を窺うように見上げる。

「えっ、あぁ。もうすっかり」

「そうであったか。本当に良かった」

 ホッとしたその表情にジワリと胸がざわついた。

 ついグッ、と拳を握る。気を緩めると勝手に動いてしまいそうな自らの手に腕にブレーキを掛ける。

「つーか、なんでここに隠れたんだ?」

 怪訝にした眉を撫子へ向けた。撫子は一度蘇芳と目が合うと、フイとまた襖を向いてしまった。

「あの反物、な。今日は見たくないのだ」

「なんで? めっちゃ綺麗なもんばっかだったじゃん。全部撫子の着物候補なんだろ?」

「…………」

 押し黙る撫子へ努めて明るく接しようと、話題を振る。

「俺チラッとしか見てねぇけど、全体的にどれもこれもキレーだったよな! まぁ俺を護衛に付けるくらいだからイイモンには間違いないし。どんなのにすんのか決めた?」

「まぁ、な」

「撫子は美人だしなんでも似合いそうだけど、あの中ならピン──じゃねぇや桃色とか山吹色とか、淡い系は特に似合いそうだと思った。撫子は気に入ったのあったか?」

 蘇芳はそうして首を傾げ撫子を窺う。

「端から、此度は白をと決まっていた。こんは気をまわし、わざわざ色物も持ってきてくれたのであろう」

「白? あぁ、あれか。模様浮き出てスゲェやつ。所々銀の糸で織ってあって確かにキレーだったけど、あれじゃちょっと普段使いには向かなくねぇ?」

「あぁ、そうだ。あの白は、普段着ではない」

「ん?」

 完全に俯き小さくなってしまった撫子の細い声を、懸命に聞き取ろうと耳を傾ける。

「あれは、な。白無垢となるのだ」

「シロ、ムク……」

「…………」

「って、何?」

「しっ、知らぬのか?」

 長い黒髪を散らし、目を真ん丸に見開き振り返る撫子。そのぎょっとした表情を見るなり(もしかして俺、自分のバカさ暴露してる?)と焦燥に駆られた。思わず恥ずかしさで首が熱くなる。右掌で口元を覆い隠し俯く。

「ご、めん。わかんねぇ」

「いや……」

 蘇芳の無知さに肩すかしを食らったが、撫子は口の中をチリとひと噛みした後に視線を再び下へ向けると、丁寧に言葉を並べた。

「白無垢とは、嫁ぐ折におなごが纏う着物のことだ」

「嫁ぐ折、って、誰が何処に嫁ぐの」

「…………」

 蘇芳は少しだけ嫌な予感を察知した。無意識に口元から外した右手を握り、やがて汗が滲む。

「私だ」

 ゆっくりと顔を上げた撫子は、黒真珠のような瞳からボロと大きな涙粒を溢し、しかし動じず続けた。

「私が、隣国の若君に嫁ぐのだ」

「なん……」

 ひとつ、もうひとつ、と撫子はどんどんと涙を溢れさせる。堪らず、蘇芳に再び背を向け襖に額をもたれかけた。

 そうして小刻みに震える羽織が、無情にも涙の美しさを引き立たせる。

「なんで? なんで泣いてんの」

 ガツンと、ショックを受けたはずの蘇芳は不思議と冷静に切り返す。

「泣くほどイヤなのか? そんなヤな、相手だった?」

「違うっ、違うのだ蘇芳! そうではないっ」

 ブンブンと、音が聴こえるのではと思えるほどその頭を振る。鼻を啜る音が合間合間に聴こえる。

「顔を見たことも、声を聞いたこともない、そのような若君だ。故にそこは然して問題ではない」

 だいぶ問題だろ、と過った蘇芳であったが、時代の違いを思い出すといくつかの言葉を呑み込んだ。

「問題は私にある。弱く愚かな、私の心にある」

 聞き捨てならない言葉が並び、蘇芳の眉はどんどんと寄っていった。

「私はな、自分の気持ちに常に正直でいたいと思っていた。だが父上のご意向や、国の安寧を思い他国との架け橋になることは、もはやこの城に唯一残りし『姫』である私にしか成し得ぬ事。ただの女の願望なぞを国や民の命の重さと比べ押し通してはならぬ。わざわざ口にせずとも、このようなことは幼き頃よりわかっている。わかっているのだ……だがな」

 震える声を懸命に抑え、溢れ出る涙を小さく白いその手で拭っているのだろう。蘇芳はその薄紅色の背をじっと見詰めていた。

「わ、私は、抱いてはならぬ想いに気が付いてしまった。こんなものは早く棄てなければならぬのに。どんどんこの身を喰らい、大きくなる。この想いを抱いたままでは嫁げ──民や父上のために、働けぬ」

「…………」

 姫の役割を一身に担い理想であり続けようともがく様が、蘇芳にはなぜか痛々しく思えてならなかった。自己主張を重んじてはいない時代背景もまた、『現代との違い』としてヒシヒシと感じる点であったためかもしれない。

 撫子という一人の女性としての気持ちと、一国の姫であるがゆえの重責が、彼女を永く板挟みにしているわけだ。

 我慢ならず、低い声と共に蘇芳は口を開く。

「その抱いちゃならない想いって何? 棄てなきゃなんねぇ想いって、それ持ったまま嫁げないって──」

 まさか、と口から出しかけたところで撫子が言葉を被せた。

「言うてはならぬっ! 私も、そなたも。これ以上は……」

 目元を拭いながら振り返る撫子を、蘇芳は瞬きも惜しくなるほどじっと見詰めた。

「このまま、どうか私一人の驕りだと思わせておいてくれ」

「驕りなんかじゃなくてもかよっ」

 ふるふると震える肩がやけに脆そうに見える。

「あぁ」

 沈黙と共に視線を四方へキョロキョロとさせた後で、撫子はやがて悲しく頷いた。

 ところが突然、撫子は額を蘇芳の胸元へコツ、と寄せ預けた。

 蘇芳は思わず驚きで目が溢れ落ちそうなほどかっ開く。ぶわっ、と体温が上がり汗すら滲む。

「なっ! 何、して?!」

「しばし、許せ」

 撫子の腕は彼女自身の胸元に留まりあった。蘇芳へは、腕をまわさず添えずを貫くようだ。

 蘇芳の心拍の速さが撫子に簡単にバレる。ぎゅ、と下唇を咬み、蘇芳も撫子へ、手をまわさず添えずを決め込む。

 瞬きが増えるが眼球の乾きが激しい。よりによってなぜ薄暗い部屋なのかと、ここへ連れてきた撫子をこのときばかりは恨む。

「毎日そなたと顔を合わすことを楽しみにし過ごしていた。寝ても覚めても、そなたを忘れたことはなかった。蘇芳と話をしている時間が、それはとても、楽しかったのだ」

 それだけ言い終わると、撫子はそっと額を離し俯きながら蘇芳から離れる。胸元で握られていた両手はそのままゆっくりと下腹部の辺りへ下ろされた。

「言うまいと決め込んでいたはずであったのに……。なぜかそなたを前にしたら言わずにいられなんだ。とても、不思議な心地だ」

 力なくそうして微笑む撫子の頬も赤く染まっていた。

 それをきっかけに、火照った頬が首が背中が、胸の中心の奥底をギュウとつねり渦にする。

「いや……」

 夜さまから少しだけタネ明かしをされていた今の蘇芳からしてみれば、不思議なことなど何もなかった。

 言わずにはいられなくなるだとか、本音を吐露してしまう『偶然』は、全て夜さまの言う『魂のリンク』によることなのだと蘇芳は気が付いた。出逢うべくして出逢い、魂を繋げられたからこそ本音が漏れ出る、そうしてその距離が近付くことをあらかじめ決められたのであろう、と蘇芳は考え至った。

「こうして受け止め聞いてくれたこと、まことに感謝している。これは夢の中のよまい言とし、どうかそなたの内のみに留めてほしい」

 どこか寂しげな、遠い大人のような表情で撫子は蘇芳を見詰めた。

 蘇芳は眉間のシワを取り、静かに目を閉じる。二分したうちのひとつの思いが、まるで箱の蓋を開くようにゆっくりと溶け出してくる。

「じゃあ、その『夢の続き』ってやつ。俺も、ちょっと」

 握っていた拳を解き目をそっと開ける。撫子の黒真珠のような瞳と視線がかち合う。

「ホントはさ、撫子とられたくないっていうみっともねぇ嫉妬心でグズグズなんだ、今。スゲェダセェ。どうやったらアンタのこと傍に置いとけるかとか、必死にそんなことばっか考えるようなガキなんだよ、俺」

 下腹部の辺りで行儀よく揃えられている白い手に目がいく。それは羽織袖口からわずかに見えている。

「けど、撫子が前向いて自分の役割を果たす覚悟決めてんなら、俺も見習ってそうしたいと思う。アンタみたいに、自分のことも周りのこともできる限り大事にして、生きてみたい」

 蘇芳は指先のみで、そんな彼女の指に優しく触れた。躊躇うように、しかし撫子もそっと指を絡める。向かい合い、絡んだそれぞれの両手は握り合うほどまではいかない、やや距離のあるふれあいである。

「ちゃんと葛藤して、ちゃんと天秤にかけてる。そうやって、一人でちゃんと物事の優先順位を決めてける撫子はスゴい。そんなこと、誰にでもできることじゃねぇよ」

 瞼を上げると、またボロリと撫子の瞳から涙粒が溢れ落ちていた。努めて口角を上げる。

「撫子なら、何処へ行ってもうまくやれるよ」

 本心ではあったが、本意ではなかった。心の中心のその奥でジワアと滲む感覚に苛立つ。これは嫉妬心だ。

「蘇芳は、いつもその言葉とその声で、私の気持ちを初心へと戻してくれるな」

 本当は今すぐに抱き締めてしまいたい、見知らぬ誰かから強引に奪い浚ってしまいたい──。

 蘇芳はしかしグッと堪え続ける。ぎこちなく絡め合う指先を優しく解いてゆく。こんなに惜しいことはないと、目頭に力がこもる。

「今は、俺もやらなきゃなんねぇことあるから、先に進むことにする。だからオアイコ。後腐れなく進もう」

「あぁ、進──ズッ、す、進もう」

 うっ、うっ、と撫子は抑える声を少しだけ漏らした。

「な、俺のことなんて嫁いだらすっかり忘れていいから。けど、これだけは覚えといて」

 目元を拭いながら撫子は蘇芳を見上げた。

「もし生まれ変わって、また出逢えたなら……その時こそ必ず、俺は撫子と一緒に生きていく。たとえ隔たりがあっても、たとえどんな姿だろうと。必ず」

「生まれ、変わったら?」

「『魂の引き合わせ』っつーのが本当に上手くいくんなら、俺は撫子を、生まれ変わった未来でも捜す。何百年先でもずっとまた捜す」

 くしゃ、と懸命に笑ってみせた。

 撫子には、うわ言や冗談だととらえられても構わなかった。なぜなら蘇芳は、夜さまや、ドアの存在を知っているのだから。それらが『いずれ魂がまた引き合う未来』を証明しているのだから。

 それを思えば、どんなに不格好であってもひとまずは前を向けたのだ。

「あぁ。あぁ、そうだな……、そうだな、蘇芳……」

 ターッと涙が流れ落ち、それを掌で覆う撫子。しかし肩を支えてやることも、まして抱き留めてやることも出来ないと、蘇芳は再び拳を握っていた。

「っまた逢おう、必ず……必ずっ。みつけて、私を、また……」

「必ず、また」



   ◆   ◆   ◆



 これは約束の鍵だ。

 また出逢えるように、お祈りを込めておくね。

 だからもう、そんなに悲しまないで。

 いずれまた、こうして逢えますように──。



   ◆   ◆   ◆



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