『ズッコケ三人組』のこと

 読者の方からお手紙をいただくようになって思い出したのが、自分が子どもの頃に出したファンレターのことです。

 小学校四年生のときのことだったと思います。私が生まれて初めて書いたファンレターは、『ズッコケ三人組』シリーズの作者那須正幹先生あてのものでした。

 私は三年生ごろから『ズッコケ三人組』が大好きで、ファンクラブにも入っていたのです。それまでに出ていた関連書籍もぜんぶ読むほど、そりゃもうズブズブのハマりようでした。

 手紙を出してからしばらく経った頃、なんと那須先生から肉筆でお返事が来たのです。飛び上がるほどうれしかったことを今でもよく覚えています。


 私が好きだったのは、『あやうしズッコケ探検隊』、『ズッコケ山賊修業中』、『花のズッコケ児童会長』、『うわさのズッコケ株式会社』、『ズッコケ文化祭事件』、『ズッコケ山岳救助隊』などです。その後ジャンプ漫画に惹かれていくにつれ、『ズッコケ三人組の大運動会』を最後にシリーズからは卒業してしまって、『ズッコケ中年三人組』も一作目を読んだのみ。でもこのズッコケシリーズからは、本当に大きな影響を受けたと感じています。


 ズッコケシリーズにはたくさんの魅力があります。三人バラバラの性格なのに、絶妙にまとまっていること。毎回全く違う世界、全く違うパターンのお話になっていること。そして何より、大人の世界を垣間見せてくれたことです。

 那須先生は、子どもの本だから、といって変に手加減をしないのです。(おそらくは)ご自身の興味のあるものをテーマにすると決めたら、とことん取材。元からお持ちの知識もくわえて、小学生の私には経験できるはずもないような、実にさまざまな大人の世界を見せてくれました。


 上に挙げた作品の中には、そうした性質のものも多くあります。「探検隊」「児童会長」「株式会社」「山岳救助隊」などがそれですね。特に株券を発行して港でラーメンを売る「株式会社」は本当に面白かったです。いまだにあのラーメンを食べてみたいと思うほどに。

「山賊修業中」でののっぺらぼう的展開には、ゾクリとさせられました。「文化祭事件」で自分の書いた台本を勝手に改変された作家の怒りも、とても印象に残っています。ズッコケシリーズに出てくるキャラクターたちって、大人も子どもも、すごくリアルに描かれてるんです。


 その中でも、「女性」の描き方がすごかった。


★ズッコケ三人組に登場する印象的な女性たち


 ファンクラブでは定期的に会報が発行されており、キャラの人気投票もやっていました。

 あるとき私は、『ズッコケ(秘)大作戦』に出てくるゲストキャラ転校生、「北里真智子」に投票しました。けれど結果を見てびっくり、彼女の得票数は一票。つまり、投票したのは私だけだったんです。

 そうか、真智子って人気ないんだ……と、愕然としたことを覚えています。

 でも、改めて考えてみると、確かに納得できるのです。ネタバレになりますが、三人があこがれてしまうほどの完璧な美少女に見えた彼女は、実は大ウソつきだったのです。

 けれども、私はそれまでに彼女のような人間を見たことがありませんでした。ウソつきなだけでなく、人心掌握にも長けていて、三人組の自分への好意を利用しようと図り、真実が知られても平然としている、転校からわずか二ヶ月で去っていった謎多き悪女……子ども向けの本に出てくるキャラクターの紹介文だとは思えないでしょう?

 最初に読んだときは、彼女のことがよく理解できませんでした。あんなウソをついて、一体何がしたかったんだろう?と。

 その後読み返していくうちに、彼女の二面性の裏にあるさびしさとか孤独とか、そういうものが浮かび上がってきて、それがまた初めて出会うはずのものなのにとんでもなくリアルに感じられて……その内面の複雑さに、人間という生き物の不思議さを感じたのかもしれません。物語の中のキャラクターなのに、こんな人が存在するんだ……!と圧倒されたことを覚えています。その人間くさい魅力にしびれていたからこそ、私は貴重な一票を彼女に投じたのだと思います。


 ズッコケ三人組には、彼女のような印象的な女性キャラクターが他にも登場します。モーちゃんのお母さん、そして市原弘子です。


『ズッコケ結婚相談所』におけるモーちゃんのお母さんは、真智子と同じく「ウソつき」です。でも、彼女が息子のモーちゃんに対してついているウソは、真智子とはまた違った種類のものです。

 最初に読んだときは「ひどい」と思ったのですが、大人になってから読むと印象が全く変わります。「離婚」や「再婚」が子どもに与える影響を書きながらも、そこに湿っぽい主張がいっさい入ってこないところがいいです。

 子どもの頃はこの話の面白さがいまいちわからなかったけれど、「ああ、世界って、人間ってこういうものなんだな」と思わせてくれるストレートな作品だと今は感じています。


 市原弘子は、『ズッコケ占い大百科』などの作品に出てくる三人組のクラスメイトです。「占い大百科」の後半で豹変するのですが、そのシーンの前川かずお先生のイラストがすごく怖かったことを覚えています。しかも一連の行動の動機がすごく単純。悪事がバレても平然としているさまに、これまた圧倒されてしまいました。

 他の作品ではそんな悪さは見えず、普通の女の子としか思えないところもまた怖さが増すポイントかもしれません。


★私を構成する核としての「ズッコケ三人組」


『ズッコケ三人組』シリーズを読めば、誰でも三人組を好きになってしまいます。「彼らが何かするところをもっと見たい」というキャラクターの魅力は大前提として、私たちがズッコケシリーズに惹かれる理由をまとめると、以下のようなものになるかと思います。


・子どもに対する遠慮が最低限しかない

・子どもが知らない大人の世界を知ることができる

・生々しい現実の一端が垣間見ることができる


 つまり何が言いたかったかというと……


 私は、小説を通して「人間」とか「世界」が書きたいんだよ!

 ……ってことです。


 ストーリーとか設定とかは、道具でしかないんです。だから割と、どうでもいいんです。よくないけど。


 これを書いて気づいた自分の改善点は、教訓めいた上から目線の文章を入れがちなこと。『サキヨミ!』一巻は、そのあたりをちょっと反省してます。押しつけじゃなく、こういう考え方もあるよ、というスタンスで入れていければいいんだけど、読む方は必ずしもそう受け取るとは限らないし……。難しいですね。


 もう一つ、いい気づきもありました。

 それは、那須先生ご自身が楽しんで書かれていたシリーズなんだろうな、ということ。

 やっぱり楽しむことって大事なんだと思います。実力が足りないままデビューしてしまったな、というのはずっと感じていて、今も不安だらけでたまに心が折れそうになるのですが、いただいたお手紙で「面白かった」「楽しかった」という言葉を見るたびに、書いていたときの楽しさを思い出し、「書いてよかったぁぁ……!」と思えるのです。

 本を書くという作業はなかなかつらく苦しいものだけど、やっぱりそれ以上の楽しさや喜びがあるからこそ続けてこられたんじゃないかな、と思っています。


 これからも、楽しみながらいいものを書いていきたいものです。

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カクヨム文章読本 七海 まち @nanami_machi

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