『モブサイコ100』の凄さ

 この物凄い作品を、どう紹介したらいいのだろう。


 きっかけは、2019年の冬アニメ。「モブサイコ100Ⅱ」でした。

 既に第二期なのに、この作品を全く知らなかった私。dアニメでなんとなく一話を見てみたところ、あんな雑な絵柄(失礼)なのに、なんだか面白い。

 調べたら一期も見られたので、即全エピソード鑑賞。

 何これメチャクチャ面白い!

 というわけで、漫画を全巻買いました。というか、買ってもらいました。誕生日プレゼントとして。

 そしたらもう、なんかもう、ほんとにすごいの。

 とあるシーンではひたすら笑いが止まらなかったし、とあるシーンでは涙が止まらなかった。

 これまでに面白い漫画はたくさん読んできたのに、こんなに笑って泣いたことは一度もなかった。

 そもそも、漫画を読んで泣いたのって、初めてに近い体験だったと思う。


 このシーンは、それぞれ霊幻新隆というキャラクターが関わっているシーンです。

 この霊幻という男は、「霊とか相談所」という霊能事務所を開いているんだけど、何の力もないただの人間です。

 主人公の影山茂夫、通称モブは、平凡な中学生だけど、強大な力を持つ超能力者。霊幻はモブを時給300円で雇い、自分の代わりに悪霊退治をさせます。モブの「師匠」としてふるまう霊幻のことを、モブは本物の霊能力者だと信じています。


 霊幻のことは後で語るとして、ここではまず主人公のモブから触れていきたいと思います。


★平凡な中学生モブと「力を持つ」ということ


「モブ」という通称は、もちろん「群衆」という意味の英単語から来ているのだけど、日本においては「モブキャラ」の「モブ」の意味で使われていると感じます。つまりは雑草的な、名前も与えられない脇役キャラのことを指しているのです。

 モブは主人公だけど、そういった「雑草」の一部なんです。どこにでもいて、平凡で特徴がなくて、目立たない。相手にされない。そういう性質を持ったキャラ。

 けれども、超能力者。それも、世界最強クラスの。


 この作品を見てまず感じたことは、「力を持つ」ということの怖さです。

 力って一見、とてもいいものに思えます。力があれば、力がない人にはできないことができる。自分の望みだって叶えられる。

 けれども、普通の少年らしく、普通に生きたいと願っているモブのような少年にとって、その強大すぎる力は枷でしかありません。

 この作品では、ところどころに「〇〇%」という表示が挟まれます。これはモブの感情の高まりを表す数字です。この数値が100%になったとき、モブの超能力は大きく解き放たれ、自身でも制御不能なほどに暴れ回ることになります。本人はそんなことを望んでいないのに、です。

 その感情は、「悲しみ」だったり「怒り」だったりとさまざまです。幼少期に弟に怪我をさせてしまった経験があるモブは(そのときの記憶は曖昧なようでしたが)、意識的に自身の感情を抑えています。そのため周りのみんなと同じように笑うことができず、友達や片思いの相手・ツボミちゃんから、「空気を読め」と言われてしまったりします。

 彼の葛藤を見ていると、「望んでいないのに桁外れの力を持ってしまったこと」がどれだけ怖いことなのか、ということがよくわかります。


 この作品には、モブの他にもたくさんの超能力者たちが登場します。印象的なのは、テルこと花沢輝気と、超能力集団「爪」の幹部たちです。

 テルは、ルックス、頭脳に恵まれ、さらにかなり強力な超能力を生まれながらに身に着けています。そのせいで、自身の力に絶対の自信を持っています。そして、超能力を持たない人間を「凡人」と見下しています(が、モブとの対決により改心し、後によき友人となります)。

「爪」の幹部も、テルと同じような考えを持っていました。「力を持った者は、持たない者を支配して当然」と。

 このように、超能力を持つ人間は、そのほとんどがモブとは異なり、その力を「自身の武器」であり、「自身に価値を付与するもの」だとみなしています。

 しかしモブはそうは思っていないのです。モブにとって超能力というのは持って生まれた「個性」のひとつでしかなく、同時に「人に向けてはいけないもの」だったのです。


 これをモブに教えたのが、霊幻でした。


 モブは小学生の頃に教わったこの教えを、最後まで大事にし続けます。モブにとって霊幻は、何の能力も持たずとも、本当の「師匠」なのです。


 モブは話術に長けた霊幻を見習ってか、力を使わずに対話をすることによって物事を解決しようと図るようになります。

 この作品は、モブの成長がひとつの大きな見どころになっています。

 超能力とどのように向き合い、付き合っていくか。超能力者として、どのように生きていくか。

 さまざまな人達との交流や戦いを通して、モブが変化していく様を、見事に描き切っています。このモブの変化・成長はまだまだ途上と言えるでしょうが、漫画のラストの一コマは、彼の一つの到達点になっていると思います。


★霊幻の凄さ


 霊幻は、詐欺師です。平気で嘘をつきます。けれども悪人じゃない。

 彼は依頼人の問題をきちんと解決してお金をもらっています。肩こりや腰痛を悪霊のせいにしてマッサージを施し「除霊」と称しているわけですが、きちんとマッサージの勉強をし、お客さんをスッキリさせて帰しているのです。

 中学生をだまして仕事をさせている時点でまともな大人とは言えないかもしれませんが、霊幻がモブを必要としているように、モブも霊幻を必要としていました。

 モブは霊幻を「先達」として見ていた。そして霊幻はモブを利用しているだけのように見えて、その実モブに憧れていた。

 霊幻は、ずっと「何か」になりたかった。普通ではない「何か」に。

 けれどもモブを通して、その「普通ではないこと」の重さを知っていくことになります。

 モブの抱えている問題の大きさを知り、モブを支え、助け、救おうとするのです。


 漫画の最終巻、街中で人を寄せ付けずに暴走を続けるモブを止めようと、飛ばされながらも何度もモブに向かっていこうとする霊幻を見て、私は泣きました。

 霊幻の気持ち、その優しさ、モブに対するあこがれや敬意、彼らの交わしてきた言葉たちに、共に通り抜けてきた数々の出来事。

 その全てが、彼の表情に、彼の行動に、彼の仕草に、表れていました。

 私はそこに描かれたもののあまりの大きさに、それを受け止めきることができませんでした。

 かつてこれほどまでに大きなものを表現した媒体があっただろうか?

 漫画、映画、小説ですら、あんなシーンを見たことはありませんでした。

 霊幻という男の大きさに、モブという一人の美しい中学生の純粋さに、その二人の奇跡的な出会いと得難い思い出の数々に、私はいつまでも泣きました。


 霊幻は、まるで人を導く神のようです。


★最後に


 ここで少し、モブが作中で言った言葉を引用します。


「人に助けられて生きてるってこと、気づいたほうがいいよ」

「僕は幸せ者だ。みんなに感謝しよう」


 とてもありふれた言葉のように思えますが、超人的な超能力者であるモブが言うことで、重みが増すようです。こうしたことを、体験を通して自身の実感として会得したモブのことを、誇らしく思います。


 この他にも肉体改造部やエクボといった好きなキャラや、好きなエピソードもたくさんあるのですが、とても長くなりそうなのでここで終わりにします。

 とにかく、すばらしい作品です。霊幻がメインのスピンオフ作品「REIGEN」もとてもよかったのでおすすめします。未読の方は、ぜひ。漫画は絵柄が独特なので、アニメから入るほうがとっつきやすいかもしれません。


 ※ちなみに笑いが止まらなかったのは「スタスタ」のシーンです。あれは、ずるい。うますぎる。全てをひっくり返されました。

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