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深い印象を受けた作品~小説編~

 ちょっと趣向を変えまして、私がこれまでに読んだ小説の中でも、印象的だったもの、影響を受けたものについて書いてみたいと思います。


~目次~


★濃厚で忘れられない読書体験を提供してくれた作品


 司馬遼太郎『燃えよ剣』

 カフカ『変身』

 エミリー・ブロンテ『嵐が丘』


★世界観が魅力的な作品


 森見登美彦『四畳半神話大系』

 尾崎翠『第七官界彷徨』


★文章に酔いしれることができる作品


 三島由紀夫『金閣寺』『仮面の告白』など

 梶井基次郎『檸檬』など


★キャラクター、セリフの描き方がうまい作品


 ジェイン・オースティン『自負と偏見』


★作者の人間性に惹かれてしまう作品


 太宰治作品全般

 スウィフト『ガリヴァー旅行記』


★子ども時代を思い出せる作品


 中勘助『銀の匙』

 井上靖『しろばんば』


★番外・小説執筆の助けになる本


 梅田卓夫『高校生のための文章読本』



 ~目次ここまで、以下本文~



★濃厚で忘れられない読書体験を提供してくれた作品


 これはたくさんあるのですが、「夢中で読んだもの」に絞ります。


・司馬遼太郎『燃えよ剣』


『るろうに剣心』の影響で、中学生の時読みました。初めての時代小説ですね。

 矜持だの怯懦だの聞き慣れない単語が多く、辞書を引きながら読んだことを覚えています。虚構だとはわかっているものの、実際の地名や歴史的事件が登場する中で繰り広げられるドラマなので、没入感がハンパなかったです。とにかく、最後まで面白かった。そのうえ、文章がうまい。

 新選組という組織を物語で描く際、主人公に据えるべきは、やっぱり副長である土方歳三だなあ、と今でもしみじみ思います。近藤勇もすごい人物ですが、物語の視点に選ぶにはちょっと違うんです。


・カフカ『変身』


「ある朝目覚めると、巨大な毒虫に変わっていた(抄訳)」、という書き出しがとても有名な作品ですね。

 これを読むきっかけは、高校生のときの通学電車内で見た、とある光景です。

 向かいの席に座っていたギャルギャルしい女子高生が、顔ごと入っちゃうんじゃないかっていう勢いで、ものすごく熱中していた本。それがこの作品だったのです。

 ギャルへの対抗心もあってか、私はすぐにこの本を買いました。そして寝る前に読み始めたところ、面白すぎてあっという間に読み終えてしまいました。まさしく「没入」してしまった作品です。

 主人公が退場した後、まるで生まれ変わったかのようなすがすがしさに包まれている家族の描写が印象的でした。


・エミリー・ブロンテ『嵐が丘』


 これを恋愛小説といった人は誰でしょうね。そんな生ぬるいもんじゃないです。これは魂の物語です。とにかく、凄い。その一言に尽きる。こんな凄い小説とは、そうそう出会えないでしょう。

 一言でいえば、「嵐が丘」と呼ばれる屋敷に住むアーンショウ家と、数マイル離れたところにある「スラッシュクロス」に住むリントン家の、世代を超えた復讐劇。もっと言えば、その中心人物、キャサリンとヒースクリフという男女の、情念の物語です。

 著者のエミリー・ブロンテはブロンテ三姉妹の次女。姉のシャーロットと妹のアンも小説家です。『嵐が丘』はエミリーの死の一年前、29歳のときに描かれた作品。彼女が遺した作品は、これ一作のみです。

 生涯に一編でも、こんな小説を書けたら、悔いなくあの世に行ける気がします。読んでから十年以上経つけれど、今まで読んだ小説の中で、いまだにベストワン。

 いつか、こんな凄い小説を書けたらいいなぁ……。


★世界観が魅力的な作品


・森見登美彦『四畳半神話大系』


 森見さんの作品はいろいろ読みましたが、やっぱりこれが一番好きです。なんといっても、構成が秀逸。四つのエピソードが収録されていますが、すべて書き出しは一緒(あ、最後の話だけ違ったかな?手元にないので確認できません……)。

 主人公はすべて同じなのですが、彼が大学で入るサークルによって、その後の物語が変わっていくという、パラレルワールドものです。すべてのエピソードに共通している登場人物や展開もあり、その比較がおもしろいです。

 私はやっぱり、総集編とも言うべき最後のエピソードが一番好きです。

 ちなみにこの作品、2010年にノイタミナ枠でアニメ化されています。原作に忠実な早口による語りや絵柄が独特で、オリジナルエピソードも多く、とても楽しめます。おすすめです。


・尾崎翠『第七官界彷徨』


 唯一無二の世界観。好きすぎる。

 この世界観をなんと表現したらいいのか、言葉に迷います。ファンタジーっぽいのに、リアル。キーワードは「少女漫画」、「乙女チック」、「ガーリッシュ」。でも、フワフワしているわけではなく、妙に冷めている。

 主人公は、赤い縮れ毛に悩む小野町子。精神科医の長兄・一助、植物の恋について研究している学生である次兄・二助、音大を志望しているイトコ、三五郎の住む家に、炊事係として住み込んでいる。そんな町子の、小さな恋のお話です。女性はもちろん、男性もおおいに楽しめるはず。この世界は、この作品の中にしか存在しない。ぜひ味わってほしいです。

 尾崎翠の作品は、他のものも全部かわいくてステキで面白い。『アップルパイの午後』なんか、ラストで萌え死ねます。


★文章に酔いしれることができる作品


・三島由紀夫『金閣寺』『仮面の告白』など


 高校生のときにハマった作家です。なんかもう、衝撃でした。完璧な文章。三島由紀夫は言葉の感覚が鋭すぎて、体で感じるよりも先に言葉で世界を捉えていた人なんだと思います。これ以上ないほど極上の言葉の海に放り出されるような感覚。言葉の天才が紡いだ、頭で考えて書かれた小説、という印象です。

 三島由紀夫が太宰治を嫌いだったというエピソードは面白いですよね。太宰の家にわざわざ行って、「あなたの文学が嫌いなんです」と言ったという。太宰は窓辺に移動し、「そんなこと言ったって、家に来るくらいだから、やっぱり好きなんだよ」とつぶやいたという。もうなんか、かわいすぎて、この二人、好きすぎる。似た者同士なのに、小説の書き方は全然違った二人。三島が美しい文章で取り繕うことで隠そうとした「人間の弱さ、醜さ」を、太宰はおもしろおかしくそのまま書き出してしまう。三島はそのやり方が許せなかったんでしょうね。どちらも好きな作家です。


・梶井基次郎『檸檬』など


 おいしい飲み物のようにごくごくと飲み干せる、美しい文章。一時期、この人の文章を目標にしていました。好きすぎて、卒論のテーマにしようとも考えていましたが、先行研究が多すぎてやめました。


★キャラクター、セリフの描き方がうまい作品


・ジェイン・オースティン『自負と偏見』


 上下巻あったのですが、面白すぎて明け方までかけて読破してしまった作品。

 単純にストーリーが面白すぎるのはもちろん、キャラクター、特に俗物の描き方がとてもうまい。登場人物たちのセリフもリアリティがあって、大変面白い。ダーシーはツンデレの元祖でしょうか。何度も映像化されていますが、どれも原作の面白さを表現できていない気がします。この作品は、小説で読むべきだと思います。


★作者の人間性に惹かれてしまう作品


・太宰治作品全般


 日本人作家の中で、一番好きなのが太宰です。『人間失格』や『斜陽』もいいのですが、『畜犬談』や『春の盗賊』などの短編のほうが、おもしろいものが多いです。笑えます。あとは、『乞食学生』とか。まさかのオチ。

 読めば読むほど、ぜひ友達になりたいと思ってしまう。死後、あの世で会ってお話をしたい人ナンバーワンです。


・スウィフト『ガリヴァー旅行記』


 第一篇の「リリパット国渡航記」のみが有名で、なぜだか子ども向けの作品として認識されちゃってるけれども、これはものすごい風刺文学です。数々の皮肉の裏に、人間の愚かさとそれに対するあきらめ、怒りのようなものを感じます。

 スウィフトはとにかく人間が嫌いだったんだけど、もしかしたら同時に好きでもあって、よりよい存在になるにはどうすればいいか考えすぎた結果、「やっぱダメじゃん!」となって、こうなってしまったのかな……とか、思ってます。この人とも、あの世で機会があれば、お話したいです。


★子ども時代を思い出せる作品


・中勘助『銀の匙』


 とても純粋で素直な小説です。作者の幼年期の中にすっと入り込むような感覚に陥ります。タイムスリップして、子ども時代の作者になって一緒に人生を体験するような、そんな感覚を呼び起こす作品です。

 2018年の夏から秋にかけて、Amazonプライムで「ちびまる子ちゃん」約500話を子供と一緒に見たのですが、「時代が変わっても人間の本質というものは変わらないのだ」、としみじみ思いました。この作品も、生きた時代は全然違うのに、そうした共感を呼び起こしてくれます。


・井上靖『しろばんば』


 作者の幼年期の思い出を元にした小説。タイトルの「しろばんば」は雪虫のことです。雪虫は、私にとっても子供時代を思い出す象徴的な虫です。『銀の匙』と同じく、作者の幼年期に入り込み、ともに体験しているような感覚になれます。時代も場所も全然違うのに、なんだかとても身近で、リアルなのです。

 なんといっても、「おぬい婆さん」の個性が強烈。主人公である洪作に対する溺愛っぷりには、まる子に対する友蔵じいさんのそれを彷彿とさせる、いやそれ以上のものがあります。おぬい婆さんの宿敵である、やたらと考え方が現代的な主人公の母、七重との対照も面白いです。続編である『夏草冬涛』、『北の海』も楽しめました。


★番外・小説執筆の助けになる本


・梅田卓夫『高校生のための文章読本』


 高校生のときに読みました。古今東西のさまざまな書き手による名文が紹介されています。「読解を通して表現力をみがく」のが目的とのこと。

 この本のすばらしいところは、いろいろなジャンルの文章に触れられる、ということ。大岡昇平やつげ義春がとても印象的でした。取り上げているのは作品の一部なので、「全部通して読んでみたい」と思えるようになっている点もすばらしいです。それまで自分が知らなかった作家の作品を手に取る機会を作ってくれるというわけです。

 高校一年生だった当時、この本を読んで学んだことを生かして短い小説を書きましたが、それまで書いていたものとはまったく別の「きちんとした小説」の形になり、自分でも驚いたことをよく覚えています。

「高校生のための」とはありますが、大人にもおすすめです。


  *


 小説編は、とりあえず以上です。気力があったら、漫画編と映画編も書きたいな、と思っています。

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