児童向け小説における、非日常と痛み

 前回の「児童向けというジャンル」において、えーきち様にコメントをいただいてから、ちょっと思うことがあったので、書いてみたいと思います。


 私が子どもの頃に楽しんだ小説たち。そのどんな要素に私は「惹かれた」のだろう?


 まず、「エルマーのぼうけん」シリーズ。それに、「海底二万マイル」や「ジキルとハイド」、「オペラ座の怪人」など。これは子供向けに書き直されたものとは言え、本当にハラハラして面白かった。

 これらに共通するのは、自分の知らない国や世界、時代を舞台にして繰り広げられる「非日常」の物語であるということ。

 自分の知らない世界だからこそ、面白い。これは大人向けの小説でもそうですね。職業小説などは、知らない世界をのぞくことができ、知識欲を満たせるという側面があります。

 次に、「ドッキリふたご名探偵」や「ズッコケ三人組」シリーズ。これらは、上の作品とは違います。日常の中に非日常が入り込んで来るパターン。ドラえもんと同じですね。

 主人公は小学生、舞台は現代の日本。設定そのものは「身近」でありながら、大人の起こす事件に巻き込まれて危険な目に遭ったり、株式会社を作ったり、無人島に漂流したり。


 ということでキーワードその1、「非日常」。


 これは、児童向け小説に必須の要素なのではないでしょうか。ファンタジーでなくとも、非日常は書けます。要は、「それを読む子どもたちにとっての非日常」を書けばいいわけですから。

 設定に凝らずとも、むしろ使い古された設定であっても、「なかなか起こりえない状況」下の物語であれば、なんでもいいのです。


 みらい文庫の人気作品「渚くんをお兄ちゃんとは呼ばない」は、親同士が再婚し、クラスの人気男子と一つ屋根の下に住むことになった、という何十年も前からの少女漫画でよくある王道パターンを設定に持ってきています。

 でも、キャラクターの心理がていねいに描かれており、ひとつひとつのできごとも、効果的で面白い。シンプルで読みやすいのに、表現が工夫されているという文章のおかげでもありますが、あっという間に読めるうえに先が気になるという、児童向けとして満点の作品だと思います。

 クラスの男子といきなり兄弟になる、というのも非日常ですが、主人公が漫画を描いている女子だということも、漫画を描いたことのない子どもからしたら「非日常」です。冒険に出なくとも、魔法が使えなくとも、非日常は書けるのです。

 私の場合、設定に頼り過ぎてしまっているきらいがあります。物語を考えるとき、まず細かい設定から考えるのです。「渚くん~」のような作品を書くには、もう少し違うアプローチが必要なのかな、といろいろ考えている最中です。


 さて、次なる要素です。

 児童書の後に読んだ漫画、スニーカー文庫には、ざっくりとした共通点があります。

 ゲーム的バトル要素を含んだ物語です。冒険や主人公たちの成長が前提の、RPGのような。

 そう、私はゲームにもハマったのです。中でも、ファイナルファンタジーや幻想水滸伝のようなRPGですね。

 主人公を操作しながら物語を進め、敵と戦い、小さな目的を達成しながら最終目標に向かって突き進む……これ、小説と同じです。

 こうしたゲームや「幽遊白書」などに共通しているのは、人間の感情描写が丁寧だということです。葛藤、苦悩、遺恨……そういった「痛み」に近い感情が、随所で物語に力を与えています。

 この痛みの表現には、遠慮がありません。野望の達成のために残虐な行為に手を染めたり、かつての親友に復讐することを誓い、それを人生の支えにしたり、主人公の命を助けるために化け物に自らを食わせて絶命したり。

 そこには、それまでに触れたことのない、人間の闇がありました。人間は、こういう生き物だと。こういうことをしてしまうかもしれない生き物なのだと。それまで大人による生ぬるい保護の中に浸かっていた私は、冷や水を浴びせられたような衝撃を受けました。

 私は、人間の真実を知りたいと思いました。この世の真実を知りたいと。


 キーワードその2は、「痛み」。


 私は、この「痛み」を書きたいと思っています。痛みという強い感情は、子どもの心にとっては、大きな衝撃になるはずです。

 でも、私が書くのはあくまでも児童向け小説ですから、残酷な表現は使えません。でも、残酷な表現なしでも「痛み」を書くことは、いくらでも可能です。

 要は、人間をきちんと書く、ということでしょうか。

 書かれたキャラクターの感情。そこに共感を抱き、小説世界と自分をつなぐことで、この世界や人間について考えるきっかけが生まれる。そして、それが大人になっていく、ということなのかもしれません。


 考えながら書いたので、相変わらず読みづらい文章で申し訳ありません。しかもこれだけ書いておきながら、考えがちゃんとまとまっていません。

 なんというか、書きながら、「私がほんとに書きたいものって、児童向けじゃ実現できないことなんじゃ……」と思い始めてしまいました。


 ……残酷描写・性描写ありの大人向け小説……書いてみようかなあ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る