世界と趣向

 歌舞伎用語に、「世界」と「趣向」というものがあります。歌舞伎の台本の作劇に関する言葉です。


「世界」とは、「よく知られた物語の型」のことを言います。忠臣蔵とか、曽我物語とかですね。

「趣向」とは、その「世界」に加えるオリジナル要素のことを言います。当時の時事ネタや、全く違う時代や物語の登場人物など。この「趣向」によって、型にはまった「世界」の物語が動き出します。ここが作者の腕の見せどころになるわけです。


 小説にも、この「世界」と「趣向」の考え方は取り入れられるのではないかと思います。


「世界」は、小説に置き換えると、いわゆるジャンル、舞台設定です。

 世にあふれている数々の小説、物語には、必ずこの「世界」があります。そして「世界」には、守らなければいけない「常識」があります。


 例えば、現代の学校を舞台にした、スポーツ系の部活の青春小説を書く場合。

「殺人事件が起こる」「動物がしゃべり出す」「呪われし魔剣の封印を解く」などといった展開は、この小説の「世界」における「非常識」となります。


 こういった話をする際、私が昔からよく引き合いに出す作品として、クエンティン・タランティーノが脚本、出演している「フロム・ダスク・ティル・ドーン」という映画があります。

 ネタバレしてしまいますと、この映画、途中でジャンル(ここで言う「世界」ですね)が変わるのです。

 前半はスタイリッシュなクライム・サスペンスですが、後半は、B級ゾンビ映画に早変わりしてしまいます。

 まさに「唖然」とするほかない、トンデモ映画です。大好きですが。


 これは、小説ではやってはいけないことです。読者は読みながらその小説世界を自分の中に構築しています。「スポーツ系の部活の青春もの」の場合、そこに期待するのは友情や恋愛、試合に向けて努力する姿などです。堅実に練習してきたのに、後半に入っていきなり魔法の力に頼るとか、そんなことは許されません。一つの作品につき、「世界」は一つです。


 物語には、ある程度の型があります。読者も、その型を知ったうえで読んでいます。「予測不能の物語」は確かに魅力的ですが、あまりにも違う方向に話が流れて行くと、読者は大きな違和感を覚え、最後までついてきてくれません。斬新なものを作り出そうとしてそれを大きくはみ出してしまっては、台無しです。


「斬新さ」を狙うのであれば、「世界」ではなく「趣向」を工夫すべきです。「世界」で読者にある程度「こんな感じの話だろうな」と思わせておいて、その予想を大きく裏切るには、この「趣向」でどれだけ工夫できたかで変わってきます。


「趣向」は、「世界」以外の部分すべてです。物語の筋はもちろん、キャラクター、小道具、演出など。

 ただ、これも、完全にオリジナルなものって、難しいです。物語の型たる「世界」同様、この「趣向」においても、現代の多様化したコンテンツの中で、完全に「新しいもの」って、もう生まれ得ないんじゃないか、と思うのです。


 児童向けの作品を書くようになってからのことなのですが……「これ、どっかで見たような気がする」「もう似たような作品があるような気がする」……書いても書いても、そんな「呪いの言葉」が頭から離れなかった時期があります。

 ですが、途中から、「それは当たり前だ」と思うようにしました。


 面白い物語には、共通する要素があるのです。自分の面白いと思う作品が、過去の作品に似てしまうのって、どうしようもないことだと思うのです。

「パクリOK」と言っているわけではありません。私たちはゼロから何かを生み出しているわけではなく、過去に味わった作品からもらった、ほんの少しずつのエッセンスを織り交ぜながら小説を書いているはずです。「似てしまう」のは、しようがないことなのです。

(って、これは、私の創造力のなさの言い訳にしかなっていないかもですね……。)


 ただ、それでも「完全なるオリジナリティ」を入れることを目指すのであれば、それが「テーマと物語と描写」で触れた「テーマ」になってくるのかな、と思います。

 その作品を通して何を伝えたいか。何を表現したいか。

 これも「趣向」のひとつです。


「趣向」には、「世界」と違って、たくさんの種類があります。ひとつの作品の中に、いくつもいくつも埋め込むことが可能です。

 この「趣向」の組み合わせそのものが、その作品の「色」になっていくのでしょう。

「世界」と「趣向」を意識して、魅力的な作品作りをしていきたいものです。

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