パレット
グース
雲柱
白い大地。そこは不毛の地。魂の抜けた殻が横たわり積み重なって出来たもの。
青い空。そこは希望の空。魂が集い創り出したもの。
それを繋ぐ、雲柱。大地と空を繋いだ故か、その色は青白い。魂の通った、残りカス。
その雲柱の根元には、家が一軒建っている。煉瓦造りの、立派な建物だ。
中に入ると、そこには暖炉の前で椅子に座り、夢現つの少年がいた。
その少年は陽の光に当てられて起きる赤子のように、ゆっくりと目を覚ましていく。そして、扉を見つめ、
「これで、最後の送り火か…」
と呟く。
少年は家の外へと向かい、そこに待っていた白いワンピースとシロツメクサの花冠を纏った少女だった。
「私が最期です。あなたには、申し訳ないですが……でも、これがいいのです、よね?」
「はい。僕はこうする事しか出来ない。ならせめて、僕は僕の出来る事をしようかと。」
「そう……。それはとても哀しい事です。貴方ではない私には、きっと一生理解できないのでしょう、その苦しみは……。貴方の最期が幸せで迎えられますように。空で見守っています。」
「その言葉だけでも有難いです。では、始めましょう。」
少年は少女と手を繋ぎ、言葉を紡ぐ。それは少女には意味をなさない言葉。意味を理解し得ない言葉。ただ、少女はその言葉を紡ぐ少年を、終わるまで見つめていた。
そして、少年が言葉を紡ぎ終えると、少女の体が青白く光りだす。
「これで送り火の儀式は完了です。貴女は空へと向かい、他の魂たちと出会い、そして空の一部となります。」
何千回、何万回と繰り返してきた言葉。ただこの時ばかりは少年自身もすこし熱を帯びていると感じた。
「…えぇ。見上げる空はとっても青くて、綺麗で…その一部になれるのはとても嬉しい事です。でも、貴方はそう成れないのでしょう…?貴方しか送り出すことが出来ないのですし…」
「そして、自分を送ることは出来ない。地には僕だけが残ります。でも、不思議と寂しくないんです。だって、僕にはこの柱たち、あなた方の魂の残滓がとても美しいと感じるのです。あんな綺麗な空になるのに、こんな綺麗な柱を遺して旅立ってくれる…きっと、魂になった人たちは、今も幸せなんでしょう。その幸せを感じるだけで、僕はもう満たされました。」
「なら、哀しむのは良くありませんね。私も笑って旅立ちましょう。送り出す貴方もとっても綺麗ですよ。では、行ってきます。」
「行ってらっしゃい。綺麗な空を見せてくださいね。」
最後の少年の言葉に、少女は花が咲いたような綺麗な笑みを浮かべた。そしてゆっくりと上がっていき、その通った後には煌く光を遺しながら空へと向かう。
その様子を彼女が見えなくなるまで、少年は見守った。
「さぁ、これで僕の仕事も終わりだ。うん、悪くない終わり方だ。」
彼女の遺した雲柱に寄りかかり、少年は目を閉じた。
やがて少年も少女が遺した柱に寄り添うように、雲を作り空へと旅立った。
地上には誰もいない。あるのは白と、青の二つだけ。
白い大地と青い空、雲の柱の物語。
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