第一話【技術使いは登校する】その⑤
〈1-3-4〉
技術は誰にでも身につく。努力によって。いや、技術のレベルを問わないならば努力せずとも身につく。
低レベルなものでいいなら例えば、
『歩く技術』『走る技術』『火を起こす技術』『石を削る技術』『枝を折る技術』『目で追う技術』などがある。
高レベルになると凶悪犯罪に使える。彼らのように…例えば、
『薬物の技術』『放火の技術』『強姦の技術』『虐待の技術』『器物破損の技術』『詐欺の技術』『監禁の技術』『誘拐の技術』『自殺教唆の技術』『強盗の技術』『毒の技術』『体罰の技術』『迫害の技術』『銃砲刀剣類の技術』『公害の技術』『汚染の技術』『脅迫の技術』『ストーキングの技術』『ハッキングの技術』『爆破の技術』『事故の技術』『欠陥の技術』『公務執行妨害の技術』『人体実験の技術』『ハラスメントの技術』『横領の技術』『怪盗の技術』『混入の技術』『不正の技術』『レプリカの技術』など。
しかし。
俺は今日大切な用があるのだ。
運動場でおよそ30名の技術使いが俺を待ち構えていたが、こんなのとまともに戦っていたら間に合わない。ここは離島なんだ。
家族の墓参りに間に合わない。
落ちたそばから技術使いは攻撃を加えてくる。
「喰らえ!!」
「…」
まだまだ戦える。まだ左腕だけだ。しかし30人全員を殴って突破している暇はない。
ここは一つ、使うしかない。達成の力を。
避けながら考える。
若干避けれてない場面もある。
達成『マゼンタ・エモーション』による攻撃…つまり感情書き換えを喰らわせる為には普通の10倍の力が必要となる。10倍俺を認識させなければならない。じゃあ1倍とはなんだと言われれば俺にもよくわからないがとにかく10倍だ。しかし、先ほどの右上から声が聞こえてきた現象が何なのかを解明しない限りは、怒鳴るのは避けた方がいいだろう。…いや、よく考えれば、向こうには叶屋さんの渡した情報があるんだった。怒鳴ることに関しては恐らくもう対策されているだろう。
では新しい方法を取らねばならない。
問題はもう一つある。彼らの『技術』だ。『殺さないことを前提とした技』だなんて、俺を打倒する為にあるかのような物ではないか。生死ではなく勝敗を賭けて戦い、殺すのではなく降参するのを待つ戦い方。それらには、織田と徳川のホトトギスに対する対応ぐらいの差がある。
相手を、俺が一番苦手な『戦闘不能』状態にする『技術』は、間違いなく俺の天敵になりうる。
ふざけるんじゃない。
構っていられるか。
今はこいつら手加減しているようだが、本気を出されたら墓参りに行けなくなる。
「おらおら!どうしたよそんなもんか!?」
「…そろそろだ」
「あ?」
「10倍とは言ってもそんなに長くはなかったな」
「はぁ?何言ってんのおめー」
「10倍時間をかけたんだよ!」
「…?」
殺し合いは基本的に短期決戦だが、『勝負』は必ずしもそうではない。今回はこういう手が使える。10倍時間をかけて10倍俺を認識させた。
さぁ、時間が無い、急ごう。
達成マゼンタ・エモーションによる、感情操作を。
「おい、やっちまうぞてめえ…ら…⁉︎」
彼らは異変を感じたはずだ。
だんだんと、皆よろめき始める。
「だんだん眠くなってきただろ?」
「て、てめえ何を…!」
「自分の心に聞いてみな」
眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い眠い。と、聞こえるはずだ。
「…⁉︎」
「な、なんだこれ…?」
「ぐっ…⁉︎」
悪いが今日は、今日だけは邪魔されるわけにいかない。凶悪犯罪者の世間体なんかに構っていられない。
「…この状況、巫の言った通りか。あいつには、常時勉強させられるな」
「…」
「おやすみなさい」
「…Zzz…」
俺はその場で寝ている30人に背を向けて、家族の墓場へ向かっていった。
〈5-2〉
そのうち、俺のこれまでの人生のことを細かく語らねばならない時がくる。でもそれはまた今度だ。
俺は予定より少し遅れて墓場に到着した。
父親の『彩』、母親の『涼子』、それから──
──妹の『緑』。3人まとめて一つの墓だ。
俺は泣いたりしない。手を合わせる。
もう昔のことだ。お辞儀をする。
俺はしんみりしない。掃除をする。
俺はもう歩き始めているのだ。俺は帰った。
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