第6章:ギルド編
第129話プロローグ
そろそろ冬の足音が聞こえてきた頃、一人の少年が所々に隙間の空いた、古い納屋で藁に包まれて横になっていた。180センチに近い長身に、鍛え抜かれがっしりした胴体に不釣り合いな、まだ幼さの残った顔だ。年の頃は16、17といったところか。
「ぶえっくしゅん!」
突然少年が大きなくしゃみをする。気温が下がってきた上に、ごうごうと強い風が外で吹き始め、ぼろっちい納屋の壁に空いた隙間から入り込んできているのだ。藁をかけているだけではなかなかに辛いものがある。少年はくしゃみのせいで起きたのか、目をゆっくりと開けた。
「はあああ」
寒さをこらえてようやく眠れたと思ったのに、現実に引き戻されたジンは大きなため息を吐いて起き上がった。吐き出した息が寒さで白くなる。それを見て顔をしかめると、かじかんだ手を擦り合わせて温め始めた。無駄かもしれないがあまりにも寒い。
「なんでこんなことに……」
今の情けない現状に、意味がないと分かってはいても思わずぼやいてしまう。それからぼんやりとこの状況になった理由を思い出し始めた。
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遡ること2ヶ月ほど前。ジンは後ろ髪を引かれながらも、心地よかった世界を捨てた。初恋を捨て、友を捨て、何もかもを手放した。全ては強くなるためだ。そしてジンが出発したキール神聖王国のあるアルケニア大陸、そのさらに東に位置するエイジエンに向かう旅を始めた。
謎の協力者が餞別としてくれた金は、ほぼ着の身着のまま旅を始めたジンにとって、少々心もとなかった。必要な装備や旅の必需品を揃えた結果、だいぶ減ってしまったのだ。ただ節約をすれば、6ヶ月の旅路はなんとか達成することができる程度の金額は残っていた。
問題が発生したのは2週間ほど前のことだ。
だんだん日が落ちるのも早くなり、寒さが増してきた。そこでジンは冬用に厚手の衣類を購入しようと、とある街に立ち寄った。そして気がつけばいつの間にか財布が掏られていたのだ。
ジンは必死になって財布を盗んだ犯人を探そうとした。だが不幸なことにまあまあ大きいその街では探す場所が多すぎて、結局彼は犯人を見つけ出す事ができなかった。それによって彼は食料品どころか、衣類を買う金すら失ったのだ。食料は草原や森、川に行けばいくらでも手に入るからいいとして、防寒着だけは欲しかった。
ただこの時はまだ、彼はこの問題を楽観的に捉えていた。いざとなれば捕まえた獣の皮でも剥ぎ取ればいい。そう考えていたからだ。だが彼の考えは甘すぎた。
全く大型の獣に会う事ができなかったのだ。見つけたのはリスや鳥のような小さな動物ばかり。森の中を深く潜って探してもなぜか見つからない。そのため、寒さが増してきたこの時期になっても未だ彼は薄手の長袖のシャツとズボンを着ていたのだった。
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「へっくしょい!」
もう一度大きくくしゃみをすると、ジンはどさりと藁の中に倒れた。大の字になって今の状況を思案し、しばしの逡巡のうちに目を開いて決心した。
「よしっ、働こう!」
こうしてジンは次の街でギルドに登録することを決意した。全ては防寒着を買うために。
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