新しい道 10
朝サエに生存確認の電話を入れる。それから出勤する第1弾のワゴンに相乗りし赤坂のホテルの前で降ろしてもらった。第1課長とは夜連絡が取れホテルの1室で会長と会うことなった。フロントの前に第1課長がサングラスをかけて待っている。黙ってエレベーターに乗り込み私が続く。廊下には頑丈な男が2人立っている。
「いや、東京にいよいよ出てきたんだね。先手を打った」
会長が週刊誌を拡げて見せる。
「あの記者が君の原本のUSBを持っていると書いている。そのUSBのコピーがすでにさる人の手に回っているとも。私はさる人なわけだね?」
「『白薔薇』のママが頭取の手に落ちています」
私は背広のポケットから鞭の傷跡だらけの背中の写真1枚だけ見せた。
「ママは鎌倉にいる。頭取はママを殺さない。彼は私が原本のUSBのコピーを持っているとこの記事で確信しただろう。それで昨日の役員会では合併について私の意見を求めてきたよ。私は合併についてはやむなしと答えた。もう粗方段取りが出来上がってしまっている。後手だ。ただ彼を新銀行の頭取にはできない」
「後ろに総理がついていますよ」
「やはりな。それで少し見えてきた。どうも検察の勢いが止まっていたからな」
「実はこのUSBより凄い証拠があるのです。ただこれを出さずに治めたいのです。それは私の力では無理です」
「私も銀行を揺るがしてまで頭取を追い込む気はない。まして総理を引き出すのは日本を揺るがす。つまり私が握っているということにしたいわけだ。君とママに手を出すなという無言の圧力をかけると言うことだね?」
「私も頭取に仕えてきたので」
「腹芸をしろということだな?」
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