過去に触れる 1

 朝珍しくサエが起きていて一緒にモーニングを食べた。妙にはにかんでいるサエが可愛い。

 今日は姉さんと集金の後は早い目に事務所に戻る。事務所の前に兄貴の組長のベンツが留まっている。私が戻ると小頭が運転で横に組長が乗って親分と私が後ろに座る。

「今日からお前は貸付部長や。月給制や。前借がいるんなら言えよ」

と名刺を親分が渡す。

 地上げの現場に止まって半時間ほど見てから、5分で約束のステーキハウスに着く。

 組長がママを見て立ち上がって頭を下げる。

「久しぶりですなあ」

 銀行員に見える男がにこにこ笑いながら席に座る。横の男はどう見てもやくざだ。名刺を交わす。こちらが金融会社の社長のようだ。

「土地建物は契約できるんか?」

「いつでも」

「入居者が6名と聞いているのやが?」

「4名はいつでも即決和解巻けますよ。親分に嘘言っても仕方ないですわ。土地建物で8億、追い出しで3億」

「幾らいる?」

「10億で」

「買い手はITMか?」

「いえ、あそこは商売敵や。向こうの購入先と話しつけてます」

「ここが買えんやったら間口が取れんからな。時価で20億は吹っかけるわな」

 どうもこれだけで手打ちになったようだ。

 先ほどの優男の頭が私の名刺を見ながら、

「一度ゆっくり飲みたいな」

と妙な言葉を漏らす。

 












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