糸口 3

「だいぶ慣れて来たな?」

 姉さんと集金から戻ってくると、親分が

「座れ」

と言って調査ファイルを手にお茶を飲んでいる。姉さんはそのまま労務者を迎えに出かける。

「謄本も決算書も読めるようやの」

「ちょっと聞いていいですか?」

「おい、コーヒー入れたれ」

「伊藤って聞いたことありますか?」

「伊藤と言っても分からんがな」

「金融界で伊藤と言うと有名らしいのですが?」

「彼奴か」

「20年前は大阪をうろうろしてた。金融ブローカーや。ここの事務所もよう来てたな。大体怪しい貸し付けが多かったな。最近は東京で新聞を賑わせているようや。番頭そこの新聞の束を取ってやれ」

 新聞を広げると指をさす。

「ITM事件と言うのですね」

「会社のM&Aや地上げ資金を触っているらしいな」

 東京から逃げて来たのか。

「まだ疑惑段階だが、いずれ警察が動くことになるな。新聞が書きだして騒ぎになってから警察が動く。それから税務署やな。新聞が騒ぎ出したら納め時やが、このタイミングが分からん奴が多い」

「この新聞貰ってもいいですか?」

「紙くずや持って行け」









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る