第16話 生活 1

 仕事はずいぶん慣れた。姉さんの一言で8割の日払いが1万円になった。朝夕の送迎トラックはなくなって、集金の後は会計の手伝いをする。不思議に計算を覚えているのだ。それに初めて触るパソコンも自然と指が動く。

「イサムはサラリーマンやったかも」

 姉さんが隣から覗き込む。親分はソファにもたれて帳簿を見ている。

「ちょっと来いや。二人ともや」

「今からこの店見てこい。2か月払いが止まってる」

 姉さんの後からついていく。

「萩に茶屋までちょっとあるよ。親分は昔から貸付もやってるの。この専門の担当もいるけど舐められてるからね」

 通りを何度も曲がって飲み屋に着く。ドアを開けると客が1人だけで、暇そうに女がカウンターにいる。姉さんはまったく気に掛けるふうもなく奥のドアを開けて入る。大きなテレビが部屋の真ん中に置いてあって、労務者たちがビールを片手に群がっている。その一番奥に髭ずらの男が木の枠の中に座っている。

「ボートのノミや」

「兄ちゃん舐めたらあかんで!毎月のもの入れな」

「親父に言ってくれや。博打屋が博打にはまってるんやしょうないで」

 姉さんは急に引出しをあけて、

「親父に言っとけ。質にこの腕時計預かるわ」

と金ぴかの腕時計をポケットにしまう。

「今日は親分と付き合いや。イサムも来るんや」







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