第31話 真相解明
「あれで良かったのか?」
「ルールはルールです。最後のお願いはグレーゾーンですが、
「お前がいいなら、俺は別に構わないが」
「大丈夫か、
「何がですか?」
「心にポッカリ穴が空いてないか心配でな」
「確かに、少しだけ虚無のようなモノは感じています。別れを告げた相手に逆上され、酷い暴言を浴びせられたことを苦にした自殺。真実なんて、結局はシンプルなんだなって」
「真相に不満が?」
「当事者たる藤枝が語った以上、あれが真実なのでしょう。芽衣姉さんは人に恨まれるような人じゃありませんでした。初めて向けられた酷い悪意が、想像以上に心を抉ったということなのだと思います。
不謹慎を承知で言いますが、私はもしかしたら、心のどこかで芽衣姉さんの死にドラマを求めていたのかもしれません。憧れの芽衣姉さんが死んでしまった。きっと何か、とんでもない理由があるに違いない。憧れ故に、そう思わざる負えなかったんです。ありきたりな理由で死ぬような人じゃないと。だけど、真実はやはりシンプルなもので……虚無の正体は、想像と現実とのギャップだと思います」
「不謹慎なんかじゃないさ。大切な人が死んだ原因に、何か特別な理由を求めたくなる。近しい人間として、そう考えてしまうのも仕方ない」
「……皮肉も言わずに慰めてくれるなんて、優しいですね」
「いつも皮肉を言ってくるのはお前の方だろうに。まあ、それはそれとして、空気くらいは読む。先輩として、傷心の後輩を慰めるくらいの配慮はするさ」
「今の私、傷心なんですかね?」
「傷心だよ。お前の言うギャップって奴が、お前の仲の傷なんだと思う。目は口ほどにものを言うともいうしな」
「どういう意味ですか?」
「今のお前の瞳、少し潤んでる」
そう言って、俊平は繭加の左目から零れ落ちそうになって雫を、指先でそっと掬い上げた。
趣味だのルールだのギャップだの、様々な言葉で取り繕うとも、身内の自殺の真相を知った直後に感情が刺激されないはずもない。自然な反応として、繭加の瞳を濡らしていた。
「一仕事終えたんだ。ゆっくり休め」
「……そうですね。流石に今日は疲れました」
「何なら帰りに何か食べていくか? 常識の範囲なら奢ってやるぞ」
「では、回らないお寿司で」
「らしくなってきじゃないか。じゃあ、帰りはハンバーガーな」
「ポテトもつけていいですか?」
「何ならスイーツもつけてやるよ」
――とんだ茶番だったな。
藤枝とのやり取りには一切関与しなかった
「朱里ちゃんも一緒にどう? もちろん、朱里ちゃんの分も奢るよ」
「是非とも。わーい、何食べようかな」
人懐っこい笑みを浮かべて、朱里が二人の下へと合流する。
これは決して演技ではない。深層文芸部での活動を楽しんでいることは、彼女の紛れもない本心だ。
出会って三週間弱。
いまさらながら、深層文芸部のメンバーで放課後に寄り道をするのはこれが初めてのことであった。
藤枝の告白を受け、事の真相は明らかになった。
残されしは、事の深層の解明だ。
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