第2話 その存在は伝説
「それじゃあ、食べますか」
昼食のメニューは、俊平はコンビニで買ってきた菓子パン二つと烏龍茶。
「うん、ちょっと大味だけど、こいつは美味いぞ!」
豪快にレジェンドバーガーにかぶりついた佐久馬が感想を漏らす。
一見するとインパクト重視のネタ商品のように思えるが、味付けにもこだわりがあり、味良し量良しの超優良メニューであることが判明した。確かにいくらボリュームがあるとはいえ、味が良くなれけばここまでの人気にはならないだろう。
「本当だ、美味しい」
続けて口にした亜季も上々の反応を見せる。
よっぽど気に入ったのだろう、口に付いた照り焼きソースを気にも留めずに、すぐさま二口目を頬張った。
「そんなに美味いのか?」
弁当派で普段は購買のメニューにはあまり興味を示さない瑛介だが、流石に目の前でこれだけ美味しそうな顔をされたら、その味が気になるようだ。
「もし良かったら、瑛介くんも食べてみる?」
そう言って亜季は、瑛介の方に食べ欠けのレジェンドバーガーを差し出す。
「申し出は嬉しいが、間接キスになるぞ?」
意外とピュアハートの持ち主の瑛介が真顔で指摘する。相手への配慮もそうだが、自身の気恥ずかしさもある。
「お年頃の中学生じゃあるまいし、大丈夫、大丈夫。私の中で瑛介くんは男としてカウントされてないから」
「……それはそれで複雑だな」
瑛介自身は亜季に対して特に恋愛感情を持っているわけでは無いが、まるで男としての魅力が無いような言われようのため、その表情は渋面だ。心で泣いている。
「じゃあ、俺も一口貰おうかな」
話に便乗して俊平が名乗りを上げる。
「……俊平くんだと少し恥ずかしいな、間接キスみたいで」
頬を赤らめて困惑する亜季。その様子を見て、すかさず瑛介が口を開く。
「待てい、明らかに俺の時とリアクションが違うだろ!」
「えー、だって俊平くんって瑛介くんと違って爽やか系のイケメンだし、恋愛感情とか抜きにしても、女子なら絶対緊張しちゃうよ」
「……つまり、俺は爽やか系のイケメンじゃないから緊張しないと」
「うん」
「さいですか」
即答する亜季とそれを聞き机に突っ伏す瑛介。
「俺って、けっこう爽やかなつもりだったんだけどな……」
誰に問うでも無く瑛介は呟く。
「ん?」「え?」「へ?」「はっ?」
瑛介の呟きを聞きとった他の四人は、「何を言ってるんだこいつは?」と、短く疑問を口にする。なお、一際威圧的な「はっ?」は俊平から発せられたものである。
「お前ら!」
あまりにも統率の取れたリアクションを取る四人に、瑛介がキレ気味にツッコミを炸裂させる。
「悪い悪い、瑛介があまりにも的外れなことを言い出すからさ」
「いやいや謝ってないだろ、それは」
隣の俊平に瑛介が素早くツッコミを入れる。漫才並のツッコミ速度だ。
「なんか不平等な感じになっちゃってごめんね。申し訳無いから、間をとって男子には食べさせないことにするよ。というわけで砂代子ちゃん、一口どうそ」
「私? うん、それじゃ一口頂こうかな」
一瞬戸惑いながらも砂代子が頷く。
「はい、あ~ん」
「う~ん、おいしい」
亜季に食べさせてもらう形で一口頂いた砂代子も、その味に感激し、幸せそうに口角を上げている。色々な意味で、見ている方もお腹いっぱいだ。
「おい、俊平。お前が爽やかイケメンだったせいで、レジェンドバーガーを食べ損ねちまったぞ? どうしてくれるんだ?」
「いや、文句を言うのはこっちだ。お前が爽やかイケメンじゃないから、俺の方こそ食べ損ねたじゃないか」
レジェンドバーガーを試食する権利を失った俊平と瑛介が、不毛な争いを始めるが、
「まあまあ、俺のバーガーを一口ずつ分けてやるから落ち着けよ、二人とも」
そう言って、佐久馬が食べ欠けのレジェンドバーガーを二人に向けて差し出す。
その言葉を聞いた瞬間、二人の睨み合いがピタリと止まり、一転、笑顔の花が咲く。
「ありがとう、佐久馬! 大好きだぜ、お前のこと」
抱きつかんばかりの勢いで瑛介が身を乗り出し、佐久馬に顔を近づける。
「いや、お前に告白されてもな」
「告白じゃねえよ!」
再びキレ気味のツッコミが炸裂し、それと同時に周囲から笑いが漏れる。
「とにかく食ってみろよ。うまいぞ~」
笑顔の佐久馬から瑛介がレジェンドバーガーを受け取る。
「うん、うまいな!」
月並みな台詞ではあるが、美味しさが伝わる満面の笑顔で瑛介が感想を漏らす。 すでに味を堪能済みの三人は、そのリアクションに頷いている。
「ほれ、俊平」
レジェンドバーガーがリレーされ、そのまま俊平は口へと運ぶ。
「うん、うまいな!」
数秒前のデジャブに一瞬場が静まるが、すぐに笑いが巻き起こり砂代子が言う。
「俊平、リアクションが瑛介と同じじゃん」
「バレた?」
「おい、俊平、俺の台詞で遊ぶなよ」
「遊んでないぞ。お前のリアクションをリスペクトしたんだよ」
「いやいや、リスペクトの使い方がおかしいだろ」
そうは言いながらも瑛介も笑いを堪えている。意外とツボだったらしい。
「美味かったのは本音だよ。サンキュー、佐久馬」
「どういたしまして」
俊平の手からレジェンドバーガーは、元の持ち主である佐久馬の元へと戻り、和やかに昼食が再開された。
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