Drift17 装着
あれから三時間、辺りには壊れたり破れたりした装備品が転がりまくっていた。まぁ、「試着」は本気に近いくらいでやらないと意味が無い。ドクトル製の
「……あはは、流石ですね」
店員は乾いた笑いしか出ない様で引きつり気味に笑っている。無理もないか。聞けばここまで「試着」で破壊した者はいないそうだ。
「いやまぁ、壊れたとは言え凄いぜ。一撃で壊れたのは無かったし」
フォローになってんのかならないのか分からない事を言っておく。ある程度予想はしてたが壊しすぎたかな?
「ふーむ、だがこの一式はなかなかだ。最後まで壊れなかったし、意外に着心地も良い。これにするわ」
「は、はい。お会計の方なんですが……申し訳ないんですが45000G程となりまして」
えらい高値になるかと思ったがそんなに高く無い。もう一回ギルドに金をおろしに行くつもりでいたが手間が省けた。
「はいよ、50000G」
「!! そ、即金で……それに5000G多いのですが……」
「あー、一応ブッ壊し過ぎたから多めにな」
「あ、ありがとうございました!」
さーてと、カイトと合流して帰りますか。
暫くしてから店先のベンチでカイトと収穫の話をする。どうやらカイトは珍しい薬草も手に入った様でご満悦だ。高かったのかと思ったがどうやら薬草学士のカイトは珍しい薬草その物を安く買う事が出来るらしい。と、いっても珍しい薬草は扱いが難しく薬草学士くらいしか扱えない様で転売は出来ないんだと。
「それにしてもおねえさんの装備、なんだか凄いですね……」
「はは、まぁ戦闘用には見えにくいわな」
そう、今私が装備しているのはクラシカルなメイド服だ。見えないが一応、黒のガーターベルトに白ストッキングも着けている。それから白手袋も。インナーは……まぁ察しろよ、私の性格だぜ?
後、鋼糸と小型ナイフなんかの暗器も仕込んだ。鋼糸以外は別にいらんが気分だ気分。
「動きにくくないんですか?」
「んー割りかし動きやすいぞ。なんなら……はっ!!!!」
この時私に天啓走る!!
悪魔的発想!
狂気の沙汰!
常軌を逸した閃き!
しかし甘美! 余りに甘美!
今やらずしていつやるか! 今しかない!
「カイト、宿に戻ったら説明するよ」
「?」
はやる気持ちを抑えつつ雑踏の中を進んだ。
――
「おおおお、これは……」
目の前にヤバいのがいる。凄ぇヤバいのがいる。
「うう……すっごく恥ずかしいです……」
ヤバい、ヤバい。天使だ、こりゃ天使だ。神なんぞ信じてねぇが私が神ならこれを天使にする。間違いない。
「似合いすぎだぞ……」
「もう! 何が『着てみたらわかる』ですか!」
ちょっと怒りながら余った袖をぶんぶん振り回す姿がヤバすぎる。語彙力無くなるの肌身で感じたわ……
それに怒りながらも脱ごうとしないのは多分、満更でもない部分があるからだ。そうであってくれ。
「もう脱いでもいいですか」
「えーもう少し」
「ヴェインさん帰ってきたらどうするんですか!」
「いいじゃん、見せてやれば」
「だーかーら! 恥ずかしいんですよ……」
こう言いつつもやはり自分から勝手に脱がないのはきっとカイトの中の何かが覚醒しつつあるのでは……という
「ただい……一体貴方がたは何を……」
「うわわわわ、ヴェインさん! 誤解、誤解です! これはおねえさんが!」
「恥ずかしいなら自分から脱げばいいのに。もしかして気に入ったとか?」
「ななな何を言うんですか!」
「似合ってると思いますよ、カイトくん」
「うう、こんのぉ……! 『刺激玉』!」
うわっ! カイトの可愛さに油断してたら口に何かが……ゔっ! これは……!
「ゔえええええ! 何じゃこりゃ!」
「ゔぐおっ! なぜ私まで……」
クッソ不味いのが口の中に広がる。苦い渋い辛いエグい青臭い、不味さの総合商社みたいな奴だ。下手すりゃ失敗作共も転げ回るかも知れん。
「ふーんだ!」
こりゃあ可愛いメイドさん、じゃなく手厳しいメイド長になるかもしれんな。末恐ろしいぜ。
「はぁはぁ、酷い味だ。と、とにかく仕事の計画を練ろう。道具類も買ってきたんでね」
「お、そりゃありがたい」
「とりあえずボクは着替えます……」
そのままで、とは言わないでおこう。また「刺激玉」とやらが飛んできそうだ。
カイトが着替え終わったところで計画開始。準備といこう。
さて、どう攻めるかな。
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