『流石ですわ、お兄様』と褒めてくれる妹が欲しかったけど、何故か自称張飛の生まれ変わりの弟が養子で来て『さすがだ、兄じゃ!』と褒めてくれるようになった件について
モブ子はメス顔をしていなかった? ver2.0
モブ子はメス顔をしていなかった? ver2.0
「けれども、今は一つ屋根の下で暮らしているわね」
裏切ったワケではなくて、僕とモブ子の関係性を説明しようとしたのかな?
「ふ~ん、同棲しているんだ。だから、お手々繋いで仲良くラブラブ登校と」
珠が良からぬ事を想像している表情をモブ子に向けた後、僕に視線を移して鼻で笑った。
「違うわ、シェアハウスのようなものよ」
「そんな嘘を吐いてもダメダメ。さっきまでのメス顔は本物だったし。あれは確実に恋する乙女だった」
モブ子の反応を引き出そうと、珠がにやにやと口元を緩めている。
もしかしたら、珠はそういう恋のお話に興味津々なお年頃なのかもしれない。
何歳なのかは分からないけど、僕と同い年くらいな様な雰囲気があるし。
「モブ子はどんなメス顔をしていたんだ?」
僕が振り返ったときには、モブ子はいつも通りの清楚で澄ましたような顔に戻っていて、メス顔を拝むことができなかった。
しかし、モブ子のメス顔とやらを僕も拝見してみたい。
というか、何故メス顔をしていたのか。
その理由が知りたいと言えば知りたい。
「……してないわよ、そんな顔」
「……モブ子のメス顔が見てみたいな。赤の他人とか言い出した事は水に流すから、そのメス顔とやらを見せてよ」
「兄じゃに見せる必要なんてないわよ。それよりも、いいの? ここで道草を食っていると学校に遅刻するわよ」
しまった!
そうだった!
僕は学校に行かないといけないんだった!
モブ子に冷ややかな視線を送られて、こんなところで時間を食っている場合ではない事を思い出すなり、僕は改めて珠と向き合った。
「十本刀だとか十品語だとか、そんなのはどうでもいいけど、襲ってくるなら暇な時にして欲しいかな。それにね、転生だとか生まれ変わりだとかを自称している人達を叩きつぶし回っている暇な人間っているんだね。無職かニートでしょ? でなかったら、学校にも通わない不登校か何かでしょ?」
僕はちょっとイライラしていたのかもしれない。
学校に遅刻しそうな事にではなくて、モブ子のメス顔とやらを見られなかったことに対してだ。
僕にはいつも冷淡というべきか、澄ます顔しか見せないモブ子のメス顔だよ?
あれ?
でも、どうしてモブ子はそんな顔をしていたんだ?
僕と手を繋いでいたからか?
でも、それって……いやいや、その考えは自意識過剰か。
モブ子が……まさかね。
たぶん、僕がひんむいてしまった全裸の男達が脳裏に焼き付いていて、そんな顔になっちゃったんだろう。
そうに決まっている。
「僕もさっさと君を片付けて、次の奴を倒しに行きたいんだよね」
珠が後ろにさっと飛び退くなり、妙な構えを取った。
太極拳であるかのように両の腕をくねくねとこねくり回し始め、何か円のようなものを虚空に描き始める。
これが奥の手とでも言いたげな自信に満ちあふれた笑顔が、鮮烈な印象を残すかのように僕の網膜に貼り付きそうだった。
「気功術の達人らしいけど、生憎僕も気功術の達人なんだよ!」
それは自称であって、僕は超能力者だけどね。
珠は本物の気功術士ならば、気功砲みたいなものでも撃ってくるのかな?
ちょっとだけ警戒しておこう。
「食らえ!」
両腕の動きが静止した。
空気の流れまでもが止まったかのように、中空に黒い円形の『何か』が出現した。
大気に散らばっていた何かしらのエネルギーを収集して形作ったようなものなのかもしれない。
「ほぉ!」
僕はそんなものを生まれて初めてみたものだから、ついつい感心してしまった。
世の中には存在していたんだ!
気の玉を投げるような戦い方が!
「気功弾!!」
作り上げた黒のエネルギー弾を両手を使って僕の方へと押し出してきた。
「……」
押し出した時の力が不十分だったのか、エネルギー弾はゆっくりとゆっくりと亀の行進のようなスピードで僕の方へと向かってきていた。
がっかりだ。
目にもとまらぬ速さで僕に直撃でもするのかと思い描いていたのだけど、そうじゃなかった事に。
「……はぁ」
面倒臭かったので、超能力で自己の防御力を一気に高めてから前へと駆け出し、
「止まって見えるよ!」
漆黒のエネルギー弾を右手でなぎ払うと、想定していた以上にあっさりと弾き飛ばす事ができた。
くだんのエネルギー弾は僕が凪いだ事で速度を速めて、どこかへと飛んで行ってしまった。
「えっ?! でたらめすぎでしょ!!」
放ったエネルギー弾が僕によって弾かれるとは思ってもみなかったというように、珠はバカっぽい表情をしながら口をあんぐりと開けて、目を大きく見開いた。
「防御よろしく!」
僕はそう一声かけてから、サイコキネシスを発動させ始める。
その一言で珠はハッと気を取り直して、顔を守るように両腕をクロスさせて防御の体勢を取った。
それでいい。
サイコキネシスのボールとか作ってみる事はできるのかな?
僕はさっき珠が見せたように、両手で円を描くようにして放出しているサイコキネシスをこねくり回して、丸く丸くさせていく。
感覚として練れば練るほどにサイコキネシスで放出している『何か』を圧縮できているような気がする。
「さて……」
そうして練り上げた、おそらくはボール状になっている『何か』を珠に向けて放った。
「くっ!?」
先ほどの珠の先制攻撃とは比べものにならないくらいの速度で直撃したのか、両腕の防御が風圧にでも当てられたかのようにいとも簡単に崩れ去り、珠の身体が浮いた。
浮いたと思うなり、その華奢とは呼べない身体がワイヤーか何かで釣られているかのような動きで後ろへと飛んでいく。
サイコキネシスのボールに為されるがままといった様子で、珠の身体は近くにあったマンションの壁に背中から激突した。
珠の身体がもんどり打つようにしなり、全身から力が抜け落ちたかのように腕や足がすっと落ち、そのまま地面へと倒れ込んでいった。
「……力の加減が必要なのかもね」
死にはしていないだろうけど、それなりの損傷にはなっていそうだ。
地面にぺたんと座りこんでいて、顔と目は僕の方に向けられているけれども、その瞳はどこから力がなく、意識がもうろうとしてきているのかもしれない。
悪い事をしちゃったかな、あの女の子に。
でも、悪いのは君なんだからね、時間が無いときに襲ってくるだなんて。
「モブ子、行くぞ」
僕達の戦いを何も言わずに守っていたモブ子の手を取った。
「え……ええ」
きょとんとした表情を見せるも、すぐに平生のすまし顔に戻る。
僕は駅に向かう道に身体を向け、モブ子でも付いてこれるくらいの速度で駆けだす。
「……また……そのメス顔……」
珠の絞るような声音が聞こえてきたので、走る速度をゆるめて後ろを振り返るも、そこにあったのはモブ子のいつもの優等生そうな清楚顔だった。
珠が認識違いをしているのかもしれない。
メス顔というものについて。
「……何よ?」
目を細めて、不服そうに僕の事をキッと睨み付けてくる。
「学校まで送るよ。変な奴らが待ち構えているかもしれないからね」
「……あ、ありがとう」
モブ子が珍しく僕に遠慮してか、顔を俯かせた。
「急ぐよ。遅れるとダメだしね」
僕はモブ子の手を取ったまま、改めて走り出した。
まずは、モブ子の中学校へと。
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