モブ子は策士か否か ver2.0


 放課後に一件ほど事件を解決して自宅に戻って、今日のご飯はなんだろう、などと考えながらリビングルームのドアを開けた。


 するとどうしてなんだろう。


 食卓には豪華なお寿司がこれでもかとばかりにテーブルの上にのせられていて、両親がにこにこと笑顔を絶やさずに座っていた。


「どうしたの? 何かお祝い事?」


 ニコニコしていて座っている両親にそう語りかけた。


 結婚記念日?


 それとも、誰かの誕生日だっけ?


 二人にとっての、何か特別な日だったかな?


「ンもう、隅に置かないわね」


「光臣にはもうとっくに春が来ていたんだな」


 などと両親が幸せそうに微笑みながら、要領の得ない事を言ってきた。


「何の事?」


 僕の誕生日でもないし、今日は何の日だっけ?


「知り合いだなんて言わないで、彼女ですって紹介なさいよ。ホント、光臣は恥ずかしがり屋さんね」


「光臣は俺の子供だな! 母さんと同レベルの彼女がいるとはな!」


 彼女?


 もしかして、昨日報告していたから万次郎の事なのかな?


 そうだとしても、なんか違うよね。


 違うというか、食い違いが生じている。


 僕の両親はぼけてしまったのかな?


 お寿司を食べながらそういう事は考えようと思って、席に腰掛けたのとほぼ同時に、リビングルームのドアが開いた。


 万次郎が帰ってきたのかなと思って、ドアの方に顔を向けると、そこにいたのはキラ・モブ子だった。


 白いワンピースなどはまだ乾いていないのか、僕のTシャツに、僕のトランクスという出で立ちだった。


 たぶん下着も洗濯したのだろう。


 ブラジャーを身につけていないのがそこはかとなくうかがい知ることができたし、トランクスの下に何もはいていない事もそれとなく想像できた。


 もしや! と思いながら、両親の顔色を恐る恐る窺うと、表情がさらににこやかになっていた。


「母さん。孫の顔はいつ見られるんだろうね」


「学生の間はまだ早いですよ。卒業してからでないと」


 いや、僕たち、そんな関係じゃないから!


 モブ子は両親の反応を見て反論してくれるはずだ。


 モブ子に誤解を解いてもらわねばと、何を思ったのか、僕の隣に腰掛けて屈託のない笑みを僕に向けてきた。


「ラブラブね」


「うん、ラブラブだ」


 僕たちが見つめ合っているみたいに勘違いされているし、ちょ、ちょっと待って!


「いや、違うって、これは違うって。モブ子、これって勘違いだよね? そうだと言ってよ、モブ子」


 同意を求めるようにモブ子に話を振ると、にっこりと微笑んでなにを言っているのとばかりに小首を傾げた。


 しかも、何も言わずにそう返すばかりで要領を得ない。


「お母さんは分かっているのよ。うん、分かっているの。だから、安心してね」


 だから、何が分かっているんだよ!


「アイコンタクトか。仲が良いのがよく分かるコミュニケーションだな」


 これのどこがアイコンタクトなの?!


 ただ相手の目を見ているだけだよ!


「さあ、今夜はパーティーだ。高級寿司を食べきれないくらい注文したからしっかりと食べていいんだよ」


「はい。それではいただきます」


 モブ子がまた僕に微笑みを向けた後、両親にも朗らかな顔を作って笑いかけた。


 というか……


 全て計算していたみたいに言うの、モブ子は?!


 こんな格好でいれば、僕の彼女に思われるからとかそんな理由で?!


 策士だったのか……。


 すっかりやられてしまったわ、僕は……。


「いくらでもあるからね、遠慮しなくてもいいんだよ」


 父親がモブ子にお寿司を食べるように促していた。


 こんな格好で家にいたら、彼女が泊まりに来ていると思われて当然か。


 ぐぬぬ……。


 というか、万次郎、帰ってないのかな?


 こんなにお寿司があるのに。


 万次郎がいさえすれば、この状況を打破できそうなものなんだけど、何やっているんだろう?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る