第102話 ローシェの調べ物②
ローシェは眉を寄せた。執事の言っている意味が分からない。
「どういうことだ?出て行った後にまた出ていくなど、起こりえないだろう」
「まあ、そうなのですけれど……。最初にアージェ様だと思って出て行った方はピンクのコートを羽織っていらして、フードを深く被っていたんです。それで私はアージェ様だと思ったのですが、その後にまたアージェ様がいらしたんですよ」
「益々意味が分からんな」
ローシェの指摘に、執事は頷いた。
「そうですよね。じゃあ、最初に見たほうは私の見間違いだったのでしょうか。それとも一度外に出られて、また戻ってきて、再び外に出たのでしょうかね」
ローシェは彼の言葉からどういうことが起こっているのかを想像する。
(あるとすれば後者のほうだが、そういうわけでもなさそうだな。ならば別人がメレンケリさんになりすましているのか?)
「見間違いだったのかもしれないが、あなたからみてその二人は、どちらもメレンケリさんに見えたのか?」
すると執事はその時の状況を思い出す。
「最初に見た、ピンクのコートを羽織っていた方は分かりません。でも、今この建物で寝泊りされている女性は、アージェ様しかおりませんから、私はそう思ったんです」
「成程。ちなみに、後から来た方はどういう恰好をしていた?」
「アージェ様のいつも通りのお姿でしたよ。長い髪を、ハーフアップされていていらっしゃいましたから。ああ、でも外に出るのに何故か薄着でした」
「薄着?」
「肩掛けのようなものは羽織っておりましたが、足元が寒そうだったんです。足首が見えて、靴もパンプスでしたから」
「今の時期にそれは変だな。パーティに行くなら分からないでもないが、城下の巡回だろう?」
「ええ、その通りです。それから、何でしょう。何か違和感があったような……」
「違和感?」
「髪の色が違って見えたような気がしたからでしょうかね」
「どう違ったんだ?」
「ええと、アージェ様の髪の色は明るいところで見ると砂色なんですよ。ですが、今朝見たときは、ベージュに見えたんです」
「砂色とベージュか……一見だけだと分からないな」
「ええ。まあ、でも一晩で髪の色が変わるわけもありませんし、光の具合で違って見えたのかと」
「……そうか」
その時だった。ローシェはあることに気が付いた。今朝、会った使用人の髪の色がベージュだったことを。
「悪いけど、もう一つ聞いてもいいだろうか」
「何でしょう」
「ミアルという使用人の髪色と髪型を教えてもらえないだろうか?」
「え?」
執事は首を傾げた。今朝会っているのに、どうしてそんなことを聞くのだろうか、と。
「ショートヘアーの黒髪ですが……」
ローシェは執事の答えに、貴族の娘に似つかわしくなく、にっと不敵に笑った。
「そうか、分かった。仕事中に呼び止めてすまなかったな。ありがとう」
ローシェは執事と別れると、メレンケリ達が泊っている建物から外へ出た。確認しなければならないことがある。
(やはり、あのとき会った人物は使用人のミアルじゃない。そしてメレンケリさんでもない。だとしたら、彼女は誰なんだ。そして、どうしてグイファスとメレンケリさんの仲を引き裂こうとしているのだろうか)
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