第85話 大蛇が必要としているもの

「タイミング?」

「はい。実は大蛇が血を吸う間隔が騎士の間で気になって、調べたんです。あ、その前に大蛇が血を吸う理由については聞きましたか?」


 リックス少将はメレンケリとジムルの方へ視線を向ける。すると彼らは首を横に振った。


「いいや」

「じゃあ、そこから説明しますね。大蛇は過去に我が国の国王と血で盟約を取り交わしています。国王の血を渡す代わりに、この国を守るという盟約です。どうやらそのときから、大蛇は国王の血を飲んで生きていたみたいなのですが、国王が亡くなってから血を渡してくれる者がいなくなった。それで大蛇は城下の人々を襲うようになったと推測されています」

「つまり、大蛇は血がないと生きていけないのか?」

 ミアム中佐は頷いた。

「我々は、そう考えています。それと被害者が出た日を見てみると、ほとんと二週間前後になっています。つまり大蛇が血を摂取する間隔が二週間前後ということです」

「ならば、大体次に襲われる日程が分かるということだな」

「ええ。それともう一つ。女性が襲われた後の方が、間隔が短いんです」

「女性の血の方が、長く持たないということか?」

「きっとそうなんじゃないでしょうか。そう考えると、大蛇が男ばかりを狙う理由も頷けます」

「確かにな。女性を狙ったときは、血が吸える都合のいい男がいなかったから、というところかな」

「そのように我々は考えています」

 

 リックス少将は顎に手を当てて、考えるしぐさをしながらミアム中佐に聞いた。


「では、ミアム中佐。そこまで大蛇の出没頻度が分かっているのであれば、次に奴が出てくる日がある程度絞られているのではないのかな?」


 ミアム中佐はリックス少将の指摘に、笑みを浮かべた。ジルコ王国はサーガス王国の為に、きちんと人選をして人を寄越したのだと思い安心したのである。


(この人にだったら信頼できる……)


 上からの命令で、ジルコ王国の軍人と一緒に見回りをするように言われたときは正直戸惑った。長いこと国交が冷え切った者同士。だが、協力するからには今まで提供してこなかったサーガス王国の情報も彼らに示さなくてはいけない。


―大丈夫なのだろうか。


 ミアム中佐は、中間職でありながらもジルコ王国の軍人が協力することに疑念を抱いていた。それは勿論、彼らがサーガス王国の為に力を尽くすとは思っていなかったからである。

 だが、今のリックス少将の指摘は大蛇を葬り去るために必要なものだった。彼は間違いなく、この国の為に動こうとしてくれている。だから、ミアム中佐は微笑んだのだった。


「仰る通りです。前回襲われたのが、丁度十日前ですので、そろそろ大蛇が行動に出ると思われます」

「成程。そしてこう言った路地などの暗いところで襲われるということだな。ならそこを中心に巡回をすればいいのではないかな」

 リックス少将の提案は、確かにここの話だけを聞いたら有効だっただろう。そのため、ミアム中佐は言いにくそうにそれを否定した。


「あ、いえ。それが人が出入りするところでも、被害が出ておりまして……」

「何だって?それはどこだ?」

「……花街です」

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