第76話 グイファスの胸騒ぎ

 グイファスは簡単にメレンケリの曾祖母である、メドゥーサ・アージェのことについて話した。

 彼女が森へ入ったとき『大地の神』の力によって、邪悪な力が増幅され、それがその身に宿ったこと。

 そして、目が合ったものを石にする力が備わったこと。

 その彼女を救うために、ラクト・アージェが自身の右手に呪われたメドゥーサの瞳から、石になる力を移したこと。

 それが代々受け継がれ、今はメレンケリの手にあること。

 そして、大蛇はその当時のメドゥーサの姿を過去の記憶としてその身に秘めており、人の中に紛れ込むためにその姿を使っていることを説明した。


「成程。しかし、そのような情報があったのなら、何故先に言わなかった?」

 ギオルグの質問に、グイファスは凛として答えた。

「これは、メレンケリ・アージェ殿の家族の話だからです。私が聞いてきたことを話して、何か違っていたりしたらいけないと思い、彼女が聞いているところで話そうと以前から考えていたのです」

 グイファスの説明に、ギオルグは何も言えないようだった。


「……そう言うことなら、仕方ない」

「私からは以上です」

「しかし、このことを話す必要はあったか?」

 サーガス王国の騎士から出た質問に、グイファスははっきりと答えた。

「私はあると思います」

「その理由は?」

「……」

「黙ったままでは、分からないではないか」

「実はその……何が影響するかは私にも分からないのです。分からないのですが―」

 そう言って、グイファスはその口を紡ぐ。

「どうしたの?」

 メレンケリが尋ねると、彼は彼女の方を向いて無理矢理笑って見せた。


「いや、何となく胸騒ぎがするんだ。君のその右手の力と、今、大蛇がその姿を纏っているであろうメドゥーサ・アージェの子孫であるということが、何となくね」

 グイファスの言葉に、再び周囲がざわめく。

「……それは、考えすぎよ……」

 メレンケリはそうは言うものの、そんなことはない、とはっきり言えなかった。

 そして周囲のざわめきを沈黙させるように、リックス少将の声が響く。


「とにかく、まずは見回りを始めましょう。朝、昼、夜に分けて巡回を行うのです。そして、ギオルグ総指揮官が仰ったように、夜に出やすいということであれば、そこに人数を集中させるというのはどうでしょうか」

 ギオルグは頷いた。

「ああ、勿論だ。それからサーガス王国のことは分からないだろうから、サーガス王国の騎士と、貴国の軍人の半々でチームを組んで見回りをするということで宜しいか?」

「ええ、結構です」

「では、今夜の見回りからよろしく頼む。だが、貴国は朝、昼、晩ともに同じ人数の編成で構わない。人数の調整はこちらの騎士の方でバランスをとる」


「分かりました。それからメレンケリ・アージェなのですが―」

 自分の名前が呼ばれ、メレンケリはリックス少将たちの方を見た。

「彼女は特殊なので、少し変則的な入れ方でも構いませんか?」


「それは貴公に任せる。彼女の能力のことが分からない我々よりも、知っている貴公が動かした方が良いであろう。彼女を参加させるときは、私にその旨を伝えてくれさえすれば、後は自由にしてくれて構わない」

「分かりました」

「ただ、国王に聞いたのだが」

「はい?」

「彼女の力は、大蛇を滅ぼす最強の力だと聞いている。大蛇が出てきたとき、すぐに出陣できるようにだけはしてもらいたい」


 するとリックス少将はメレンケリの方を向いて淡々と言った。

「だそうだ、メレンケリ。よいな」

 メレンケリは胸に手を当てて、深々と頭を下げた。

「……御意に」


 リックス少将はメレンケリの返事を聞き届けると、立ち上がって部下に言い放った。

「では、今夜から巡回を開始する。編成は私とギオルグ総指揮官で行う。それまで自室で待機するように」

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