第60話 リックス少将の話②
グイファスはこの部隊の中でたった一人、サーガス王国の出身なのだ。その祖国が問題を抱えているからこそ向かっているのだ。それ故に、ジルコ王国の人間と考え方が違って、行動が統率されなくなってしまうのは当たり前だとメレンケリは思っていた。
「君はグイファスの肩を持つんだね」
「違います!」
リックス少将の思わぬ言葉に、メレンケリは思わず反論した。
グイファスの肩を持った理由が、彼に思いを寄せているからであると思われたくなかったからかもしれない。リックス少将がそこまで彼女の心を読んでいるとは思わないが、恋をしている者は人に自分の心が透けて見えていると思ってしまうところがある。
「そうなの?」
「そうです。私はただ、彼が急いているのはサーガス王国の者であるのだから、当然のことだと思ったからです」
するとリックス少将は、頬杖をついて「それもそうだね」と言った。
「勿論、サーガス王国のことを思って急いてしまうことが悪いというわけではないよ。だけど、部隊は統率されていることで力を発揮するんだ。我々はジルコ王国からサーガス王国へ派遣される軍人だが、それをよりサーガス王国を助ける力として発揮するのであれば、グイファスは我々の心に寄り添わなければならない」
メレンケリはリックス少将を見て、目を瞬かせた。
「心に寄り添う?」
すると少将はすっと目を細める。
「そうだよ。助けてほしいのなら、助けてほしいなりに私たちに近づかなくては。マルスはすでに気の知れた友人のようになっているからいいが、私も他の軍人もグイファスのことを知らないし、サーガス王国にいる大蛇のことも遠い存在だ。それはつまり私たちはジルコ王国の国王から命令されているから来ている、というだけであって、サーガス王国のために動こうとは思っていないということだよ」
つまり極端な話、リックス少将たちはジルコ王国の国王に命令されたから動いているだけ、ということだろう。
「そうなんですか?」
メレンケリが心配そうに尋ねると、リックス少将は穏やかに笑った。
「少なくとも私の部下たちはそうだ、ということだよ。私は隊長だから少々考え方が違うけれどね。それに、グイファスのあの急ぎようを見ていると、心配でね。早くサーガス王国に行って、自分が何としてでも解決しなくてはいけないと焦っているのが目に見えて分かる」
メレンケリは、一人で夜空を見上げているグイファスに視線を移した。
(それは私でも手に取るように分かるわ)
「それはサーガス王国には大蛇を何とかする手立てがなかったからです。だからグイファスは頑張っているんです」
「そうだね。そして彼がそうなってしまっているのは、グイファスにサーガス王国の運命を背負わされているからだろうね」
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