2、呪術師
第34話 それぞれの秘密
「話が盛り上がっているところ悪いんだがね。あんたたちどうしでの話は、この山を下りてからでもできるだろ。全く、なんのためにここに来たんだい。私の前で、相手の気持ちを確かめ合うためかい?」
フェルミアが腕組みをしながら尤もなことを言う。マルスは納得しながらも、彼女の言葉の所々に悪意があるのは自分に向けられたものだな、と思った。
「違います。私のことと、それとグイファス……彼が封印の石について聞きたいそうです」
メレンケリはマルスとは違い、フェルミアの言葉をそのまま受け止めていた。折角ここまで来て会えたというのに、話を聞かないという手は彼女にはないのだ。
「封印の石、か。そう言えば最初にそう言ってたね」
フェルミアは腕組みをし足を組んだ状態で、目の前に座るグイファスに視線を向ける。グイファスは嫌な顔一つせず、寧ろ前のめりになってフェルミアに言った。
「はい。サーガス王国を守っていた大蛇が国を滅ぼそうとしているようなのです。その大蛇を倒すには、封印の石が必要であると国王陛下に仰せつかってきました」
「ふーん。国王陛下にねえ……」
「はい」
グイファスがはっきりと返事をする。すると、フェルミアは前のめりになってテーブルに肘をつくと、にっこりと笑った。だがその笑った瞳には、グイファスを見定めるような鋭さがある。
「で、お前は何者なんだ?」
その質問に驚いたのは、メレンケリとマルスだった。二人は同時にフェルミアを見て、次にグイファスを見た。しかし彼は全く動じることもなく、金色の瞳をまじない師に向けていた。
「私の素性をお知りになりたいのですか?」
グイファスの質問に、フェルミアは暫く考えると「いや」と言った。
「答えたくなきゃいいけどね」
「必要なら答えます」
「じゃあ、それは後で聞くよ。それよりも先に、聞きたいことが一つ」
「何でしょう」
「この山にお前たちが登ってきた後、後ろについてきた大人数は何だい。二、三十人くらいいただろう。お前たちを監視するものなのか、はたまた私を下界に引きずり出そうという輩かな?」
メレンケリは驚いた。そんな人数が自分たちの後ろを付いてきていたとは、全く知らなったからである。
「それは――」
「軍事警察署の人間だと思います」
グイファスが答えようとするのを遮るように、マルスが答えた。
「軍事警察署?」
フェルミアが眉を寄せた。
「はい。実はグイファスは我が国ジルコ王国で盗みを犯しておりまして」
「盗み……」
グイファスが頷いて、マルスの言葉を引き継ぐ。
「ええ。封印の宝石を持っていそうな貴族の屋敷に忍び入ったんです。本当は交渉するつもりでしたが、話を聞いてくれず止む無く……」
「間抜けだな」
グイファスの行為を、フェルミアは一刀両断した。
「弁解は致しません」
「して、軍事警察署とやらに捕まったのか?」
「はい。貴族の屋敷に入ったことと、宝石を盗み出そうとしたという理由です。しかし捕まった後は、盗み以外の罪状を疑われました。出身がサーガス王国ということで、ジルコ王国を密かに調べているのではないかと思われたようです」
「密偵、か」
「その通りです。しかしその疑いは晴れないまま、また証拠もないままで仕方なく仮釈放ということになりました。軍事警察署の元で、メレンケリ・アージェが私の監視役となり生活をしていました」
「ほお」
「それから、メレンケリに監視されている間、右手の力を抑えている手袋をまじない師から譲り受けた話を聞き、きっとそのまじない師であれば封印の石について知っていると思いました。そのため外出の許可を取り、マルスとメレンケリが監視役として付き、ここへ参ったという次第です」
「成程」
フェルミアは椅子に寄りかかる。
「経緯はよく分かった。そうなるとお前たちの後ろについてきた者たちは、お前たちの行動を見張り、グイファスの行動を見極めていると言ったところかね」
「そういうことになりますね」
「それなら都合がいい。すでに軍事警察署の者には、ここへの訪問を遠慮してもらうようにしているからね」
「遠慮ですか? でも、どうやって?」
メレンケリが心配そうに尋ねる。すると彼女は口元に人差し指を立てて笑った。
「それはまじない師の秘密さ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます