第20話 滅ぼされようとしている王国

「姿を消した?」


 メレンケリは眉をひそめた。国を守ると言ったのに、どうして消えてしまったのだろうか。


「ああ。国王が崩御してからのことだ。大蛇が盟約を交わしたのは国王。だから契約が終わってしまったんだ」

「成程。大蛇となった蛇はサーガス王国を、ずっと守るという契約を交わしたってことじゃなかったのね」

「そうだ。そして問題なのは、大蛇が今もサーガス王国のどこかにいて、国を滅ぼそうとしているということだ」


 意味が分からなった。国を守っていたはずの大蛇が、何故サーガス王国を滅ぼそうとしているのだろうか。


「国を滅ぼすなんて、どうしてそんなこと……」

「分からない。蛇と盟約を交わした国王が崩御してから百年も経ったというのに、最近になって大蛇の目撃情報があるんだ。そして大蛇が現れたと目撃情報があった場所では、若い女性が連れ去られていたり、男が殺されていたり、本当に大変な騒ぎになっている」

「でも、それだけでは国を滅ぼすことには繋がらないんじゃないの?」

「実はその事件があったあと、城の一角にある塔が壊されていたんだ」

「なんですって?」

「崩れた塔の破片を集めた者が言っていた。まるで蛇に絞められたかのような跡があったと言っていた」

「まるで今の王家を絞め殺そうとしているかのようじゃない……」

 メレンケリの言葉にグイファスは目を伏せた。

「これは、一大事だということになってね。そこで現在の国王陛下が、俺に封印の石を探してきてほしいと頼んできたんだ」


「封印の石……」


「最近めっきり見かけなくなったけれど、昔は呪術師という人たちがいたんだ。その人たちは人の悪しき心を受けて、姿が変わってしまった動植物たちを鎮めることができた。大蛇の封印にはそれが効くというのが、国王陛下のお考えだ。そしてその封印の石というのは、その呪術師が作ったものなんだけど、サーガス王国の中にはない。呪術師もいないため、新たに作ってもらうこともできない。だから、他の国にある封印の石を譲り受けようと思ったんだ」


「譲り受けるって……あなた、捕まっていたじゃないの」


 グイファスは貴族の家に宝石を盗みに入った罪で捕まっている。譲り受けようと穏便に済ませようとしていたならば、今頃こんなところにはいないというのが、メレンケリの言い分である。


「封印の石っていうのは、宝石みたいにきれいなんだ。だから貴族が持っていると思って目星をつけて、話をして解決しようと思ったんだけど、中々取り合ってくれなくてね。封印の石がいかに重要かを話をしても、ピンとこない人たちばかりだ。サーガス王国では呪術師と言うとどんな人か分かるのに、ここでは誰も知らない。だから仕方なく、あるかないか存在だけでも調べておこうと思って、窓から侵入したところを捕まえられたってわけ」


「あなたってしっかりしているんだか、間抜けなんだか分からないわね」


 グイファスは肩をすくめた。


「少し自分を過信しすぎてしまった報いだ。君の国の軍人を甘く見ていたのも悪い」

「それはいけないわね」

 メレンケリはちょっと呆れて、ため息をついた。

「だけど―……」

 グイファスはそういうと、メレンケリを見て笑った。

「捕まらなかったら、君に出会えなかっただろうね」

 思わぬ言葉に、メレンケリは目を見開いた。

 ふいをつかれた、と言った感じだった。

 メレンケリの心に温かいものが降りてきて、何かきらりと光るようなものが優しく触れたような気がした。

「私に……?」

「ああ」

 メレンケリの胸が「ときん」と震える。この気持ちは何だろう。メレンケリは自分の心が分からなった。

 それからグイファスは不思議なことを、メレンケリに尋ねた。

「それから聞きたかったんだが、君のその右手の手袋。きっと呪術師が作った物じゃないのか?」

「え?」

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