雑想

 音楽を聴きながら詩を書いていて

 それはすべてに失礼な気がした

 音楽にも

 言葉にも


 自分の沈黙に耐えられないのは

 記憶の発作に襲われるから


 こんなにひとりの人間について考えるのは

 常軌を逸しているとしか思えない

 執着に終わりがない

 記憶がいつまでも患部に突き刺さる


 三人の人間の音楽が救い

 ひとりは生きている

 ひとりは数年前に死んだ

 ひとりは数百年前に死んで

 二人の演奏者によって知り

 その演奏者もひとりは生きていて

 ひとりは生まれる前に死んだ

 ところで三人の音楽の共通点は

 余白の優しさ


 だれかの救いになるような言葉を

 自分が書くこともあるのだろうか

 それは能力ではなく

 契機の問題だから


 詩は空にある

 詩のなかにはない

 そう言った詩人もいた

 きっと言葉が嫌になったのだ

 空に比べると

 言葉は人を救わない

 そんな日もある

 うつむいたまま


 ひとりの人間の言葉が救い

 人間だったかはわからない

 少し曖昧

 あらゆる善なる言葉の後ろに

 その存在の言葉が透けて視える

 と

 頑迷な信者なら言うだろう

 眼を閉じながら


 いまも音楽がそこに

 やがて死ぬ身の消えゆく夜に

 いまも音楽がそこに

 震える空気に言葉が追いつかないまま

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