見殺し

 ぼくの冷血はいつ完成したのだろう

 だれかを見殺しにしたときか

 およそだれもが経験する殺人

 見殺し

 それに手を汚さずくぐり抜けられる人間は

 いない

 それを為さずに生きられる社会は

 存在しない

 いまだかつていない

 いまだかつて存在しない

 戦争を知らない人間は、半分は子供である

 そんな言葉があった

 戦争を知らない人間はいるが

 見殺しを知らない人間はいない

 それに触れない人間はいない

 子供さえ見殺しに加担させられる

 無関係な人間はいない

 無関係とはそれすなわち見殺しの論理だ

 神に伍して世界を見渡せるようになった代償

 神に似せて人がつくられたのか

 人に似せて神がつくられたのか

 つまびらかではないが

 人間の観測できるかぎりでは

 神は恒常的に人間を見殺しにしている

 神は観測できるものではないが

 見殺しはいつでも観測できる

 観測自体が見殺しに依っている

 見殺し

 罪深い視線

 裁かれない距離

 見殺しを内面化した人間は病んでいる

 見殺しを組織化した社会は病んでいる

 つまりだれもがことごとくのきなみすべて

 病んでいる

 と

 ぼくの冷血は弁明する

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