生涯に一度も鏡を見ずに済んだ人間は

 とても幸福なのではないか

 ぼくはきっと

 十二になるまで鏡を見たことがなかった

 とても幸せでまだ生きていた

 それからこころの準備をする間もなく

 いきなり鏡を突きつけられた

 とても砕けてもう死んでしまった

 それからの残余は長いけれど

 なくてよかったとしかいいようがない

 鏡を直視することは

 魂を失う危険が伴う

 生涯に一度でも鏡を見た人間は

 とても救われないのではないか

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