ティプトリー
ティプトリー
あなたの名前には鳥がいます
もちろんそれは
日本語だけの都合ですが
ティプトリー
それはジャムのブランド名だそうですね
人格を剥ぎ取るようなあなたのユーモアに
似つかわしいような気もします
あなたは作品のなかで
たびたび人類を滅ぼしましたね
人間が嫌いだったのでしょうか
それでいてなぜこれほど正義感が強く
なぜこれほど死の痛みを描いたのでしょうか
“……いや、それより、この痛みがなぜ消えないかだ。痛みに耐えて生きてゆくか、あるいは痛みを忘れ、そのうちいなくなってしまうかなのだ”
あなたのこんな文章を読むたびに
あなたの最期について思います
病床の夫を射殺した後
自分の頭を撃ち抜いたそうですね
伴侶の死と
自分の死の
そのはざまのわずかなひとときに
あなたがなにを考え
なにを想い
どんな痛みを感じたか
それについてよく考えます
匿名を望んだあなたにとっては
はた迷惑な想像でしょうけど
“凍りつくアンモニアの空を飛ぶ鳥さえ名前を呼ぶというのに、どうしてテラが死ぬでしょうか”
ティプトリー
あなたの名前には鳥がいます
もちろんそれは
日本語だけの都合ですが
あなたはずいぶん前に死にました
しかしあなたの言葉はまだ残っているし
あなたの夢に救われる人もいます
痛みを忘れないだれかがいるかぎり
どうしてあなたが死ぬでしょうか
と
そんな無意味で馬鹿げたことを
時おり考えてしまいます
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