帰らぬ秋

 帰らぬ秋を

 言葉で呼び戻せるだろうか


 生涯に一度きりの秋

 神の肋骨あばらぼね瞥見べっけんしたような季節

 光は柔らかく

 雨はかそけく

 鬼が殺された後のような

 嘆きの風が吹いていた

 紅葉こうよう枯葉かれはのシンフォニー

 秒刻みに痙攣けいれんしつづける黄昏たそがれ

 人々から顔がうしなわれ

 歩く墓石はかいしのように並木道をただよう

 そうして秋は

 放逐ほうちくされた死と手に手をとって

 すれ違いざまに息を吹きかけて通りすぎていった


 秋は

 もうぼくを忘れてしまったか


 秋は

 振りかえることを禁忌のように怖れているのか


 叩き折られた指でアルバムをめくりながら

 無感動な血で記憶を汚しながら

 帰らぬ秋を

 ぼくは待っている

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