冬の人魚

 水の凍てつく真冬の海に

 魂のかじかんだ人魚が震えている

 喪った声が

 粉雪となって降りしきる

 入水者じゅすいしゃのような憂鬱に紅顔こうがんを曇らせて

 切なげに手を重ね合わせて

 遠く彼方にいる彼を

 手の届かない夢を想う

 人魚の尾が水草みずくさのように揺れる

 冬の泡沫うたかたに恋が暴れ狂う

 声を喪った冬の人魚は

 喪失の代償さえも得られなかったことで

 こころを藍色に溶けさせていく

 気づかずに流された人魚の涙に

 小魚が先を争うように群がって

 てた哀しみを呑み込んでいた

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