ある詩人への恋文
無意味が四方八方からプレス機のように押し寄せてくる
弱い者たちをいじめ殺すようなニュースしか耳に入ってこない
「果して守れるか 微かな魂の温かさを」
ぼくがことあるごとにすがる詩人は
厳しい顔つきでそう書いた
でも守れそうにありません
守れそうにありません
あなたのように毅然とした
硬質でいて温かな魂は
ぼくにはありません
ぼくにはありません
なぜあなたは死んだのですか
あなたの言葉がもっと欲しい
あなたの眼とこころが健在であってほしい
あなたは大往生と呼ばれる年齢で死んだけれど
それでも死んでほしくなかった
ぼくの寿命を分けられるなら
木戸銭のように惜しみなく投げ与えたかった
もっと生きていてほしかった
まだこの世界にいてほしかった
いまではもう
あなたの遺した言葉くらいしか
すがれるものがありません
あなたの論理が間違いだらけだったとしても
あなたの詩が裏切りにまみれていたとしても
ぼくはあなたの言葉になら
魂を賭けても後悔しない
ぼくにとっては
あなたがこの世に存在したという事実が
人間への信頼を繋ぎ止めている最後の砦だ
文明の価値の失われた
あなたが懐かしい
あなたの優しい魂が慕わしい
「顔もわからない読者よ」
あなたがそう語りかけたところの読者のひとりであるぼくは
あなたが迷惑がるほどに
あなたの詩とこころに熱狂している
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