火葬にされながらぼくが思うこと

 あーあ

 ぼくの身体もついに消えちゃうんだな

 骨と灰は残るけどさ

 しかし人の死体って丈夫なものなんだね

 こんなに長々と焼かないと灰にならないなんてさ

 しかもこんなにいかつい炉を使って

 死ぬのもなかなか大変だ

 昔の平安京とかでは死体があちこちに野ざらしだったらしいけど

 高度な技術がないと衛生って保てないんだね

 きっと未来ではもっと素早く死体を消してしまうんだろうな

 その頃はどんな風に人は葬られているのかな

 注文した翌日にはもう品物が届くなんてのと同じで

 死んだ一時間後にはもう消えてしまっているとかなのかな

 いまはまだ灰になるまでにもそれなりの時間がかかるから

 ぼくもあれこれ物思いする暇があるわけだけど

 あーあ

 でも見てよこれ

 といってもぼくの眼はもう焼けちゃったし

 そもそも死んでるから見られないけどさ

 でもほんと見てほしいよ

 ぼくの死体

 焼けちゃったよ

 光に喜び色を楽しみ花を見出だし

 彼女を慈しんでいた眼は

 さっきも言ったとおり焼けちゃったし

 この世でもっとも素晴らしいものは音楽だという確信を抱かせ

 彼女の声に震えていた耳は

 自分の燃える音を聞きながら焼けちゃったし

 猫を撫で本を開きペンを持ち

 彼女にこわごわ触れていた手は

 なにものも掴まずに焼けちゃったし

 歩いたというだけで赤子の頃に親を感動させその後の出不精の主でさえもどこかへ運びつづけ

 彼女のいる場所にも連れていってくれた足は

 もう働かなくていいんだと喜びながら焼けちゃったし

 こころが傷ついたときどうしようもないほど痛みを訴えて

 錯覚でしかなかったかもしれない恋に狂いそうなほど焼け焦げていた胸は

 今度こそ本当に焼けちゃったし

 あーあ

 あーあ

 あーあ

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