泣かない世界

 人はやがて死ぬ

 その未来に耐えられないから

 ぼくは人を愛するのをやめた


 なぜみんなその未来に耐えられるのだろう

 笑いながらぼくは

 幸福を死が塗りつぶす

 やるせない終末しか頭に浮かばなくて

 笑顔がだんだんひきつっていく

 笑うにつれて痙攣けいれんする


 耐えられないのはぼくだけではないと

 本当はわかってる

 ならなんでみんなは今すぐにでも

 路上にうずくまって泣かないのか

 ぼくはいつだって

 泣きじゃくる準備はできているのに

 あまりみんなが泣かないから

 もう十年以上泣いていない


 他人に合わせて泣かないなんて

 恥知らずもいいところだ

 涙は始源から持つ灯火ともしびなのに

 それを出し惜しむ人間は

 生まれなかったのと同じだ

 ひたぶるに死んでいる生きた石像だ

 生まれなかった胎児を甦らせて

 ぼくの人生と入れ替えてくれ

 そうしてその子が生まれるときに

 好きなだけ泣かせてやってくれ

 そうしてその子が死ぬときに

 ありったけの涙を手向けてくれ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る