遺された歌を聴きながら

 夭折ようせつした歌い手の年齢を

 ついに追いこしてしまった

 十代の頃に憧れた

 才能ゆたかな音楽家


 彼の声と

 つむがれる言葉がとても好きで

 聴くたびにこころを揺らされた

 季節とつがいになった叙情に憧れた


 人は死に

 年は過ぎる

 そうしてどれだけ好きな歌にも

 倦んでしまうときは来る

 どれだけ好きだった人も

 忘れてしまうときは来る


 季節は移ろい

 なにもかもが忘れられていくが

 生きている限りは

 どんなことも思い出せる


 あおぎ見ていた人が死んで

 どれだけ年数が経っても

 歌は残る

 歌声のなかの彼は

 いまでもやはり年上だった

 いまでも気高い歌い手だった


 時は流れて

 季節はめぐり

 遺された歌にも

 四季はおとずれる

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る