幼子の眠り
子どもが眠りにつくのを見守りながら
自分が子どもだったころを思い出す
ぼくも誰かに見守られていた
疑いを知らない寝息をたてていた
この子の柔らかな安心も
いずれはやぶられてしまうのだろうか
避けがたい傷跡をこうむることになるのだろうか
それを守り抜くすべは
いまだこの世に存在しない
なにをおいても
そのすべは見出だされるべきだ
大人たちが総力を結集して
知恵の一切をしぼりつくしてでも
そのすべを創造するべきだ
でないともう
間に合わない
この子の傷がやって来てしまう
誰もが経験せざるを得ない
ふためと見られない幼年期の終わり
なぜ避けがたいのか誰もさだかにはわかり得ない
なし崩しに訪れる遊びの時間の終わり
傷を持たなければ
人は成長しない
他者への思いやりを持つことができない
それが一般論だ
でもその傷は本当に必要なのか
この愛おしい無垢は
惜しむに足りる原石は
いずれ必ず失われなければならないのか
それは揺るがしがたい真実なのか
その犠牲を捧げるほどの価値が
この世界には本当にあるのか
無垢を抱えたままの大人には
どこか痛ましいところがある
無垢を放り捨てた大人には
どこか荒れ果てたところがある
どちらの道でもない
誰も見出だし得なかった
この子の未来に用意することはできないか
世界は残酷だと教わる前に
世界の尽きせぬ優しさを証明できないか
数式のように鮮やかなその証明を
押しつけがましくないやり方で
この子の行く手に遺しておきたい
すこやかに眠る
痛みに飛び起きるその前に
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