焼きついたもの

 彼女の面影はいついつまでも

 消えなかった

 眼の奥底に取り憑いたまま

 離れることはなかった


 彼女の静謐せいひつな残響が

 耳朶じだを震わせる

 彼女の死にたがるようなささめごとが

 こころに書きつけられる


 おしでのごとく彼女の存在は

 ぼくの薄っぺらな五体に焼きつけられている

 彼女と親しくなったときから

 ぼくの記憶は果実の核のように

 彼女を中心として組み直された

 彼女と会えなくなったときから

 ぼくの記憶は人生における死のように

 彼女を絶対の余白として組み直された


 眼が潰れてしまっても

 彼女の面影だけはぼくのものだ

 こころが反古ほごのように引き裂かれても

 彼女のささめごとだけはぼくのものだ

 死にたがっていた彼女の

 明るく寂しい声の記憶は

 墓場の下にあってもぼくのものだ

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